小川 遥①
遥視点です。
長くなったので、2分割します。
予定にない話でしたが、少ない脳みそを使って考えました。
私の名前は小川遥。
とは言ってもそれは旧姓。
今は院長である夫、佐久間司の妻で佐久間遥となっている。
息子の幸助を生み、主婦と母親を両立している。
私には小学校時代から仲の良い幼馴染がいる。
名前は重森美鈴。
彼女は地味で目立たない子やったけど、中学校に上がってから容姿が美しくなり勉強やスポーツも両立できる子になっていった。
それでも美鈴の性格は変わらず、笑顔の絶えない優しい子のままだった。
そんな彼女には笑騎と言う初恋の人がいた。
いつも女の子にセクハラしてくるスケベな子やけど、根は良い奴だったので、友達は多かったみたいや。
私自身はちらほら会ったことはあるけど、特に接点はなかった。
それでも美鈴が笑騎と付き合うことになったのは、自分のことのように嬉しかった。
数年後に挙げた結婚式にももちろん参加し、美鈴に「お幸せに!」とエールを送った。
その時の彼女は本当に幸せそうで、いつまでもその幸せが続くものやと思っていた。
ところがある日、美鈴から笑騎と離婚したという連絡が来た。
「えっ!?」
信じられへんかった。
あんなにラブラブだで、みんなからオシドリ夫婦とまで言われていた2人が結婚してますぐに離婚やなんて。
私はいてもたってもいられなくなり、美鈴と馴染みの喫茶店で待ち合わせすることにした。
「美鈴……大丈夫?」
「……」
結婚式以来、久しぶりに会った美鈴は別人のようにやつれていた。
目には生気が灯ってないし、化粧もかなり雑になってる。
「笑騎と別れたってホンマ?」
「……うん」
「なんで? あんたらあんなに仲良かったやん」
「実は……」
美鈴の話によると……笑騎はアニメや漫画の女キャラに夢中になって美鈴を蔑ろにしてたらしい。
家には笑騎の買ったアニメや漫画のグッズが山のようにあり、生活スペースを占領しとったみたいや。
彼がアニメや漫画にはまっていることはよう聞いてたから知ってたけど……まさかここまでするなんて……。
美鈴は何度も笑騎に趣味をやめるように言ったけど、彼は聞いてくれへんかったみたいや。
しかもせっかくの連休に、美鈴を放置してアニメのイベントに参加したっちゅう話や。
美鈴は笑騎の目を覚まさせるためにマッチングアプリで知り合った適当な男と1回寝て、それを笑騎に見せつけたという。
でも笑騎は不倫した女とは一緒にいられへんと言って離婚し、出て行った。
それが大まかな流れみたいや。
「そんなことがあったん……」
「確かに私は笑騎以外の男と寝た……でもそれは笑騎のためを思ってやったことやねん!
私が別の男と仲良くしてるのを見たら、笑騎も自分の行いを反省すると思って……」
「ひどい話やな……」
確かに世間的に見れば美鈴のしたことは不倫や。
不倫は悪いことやって言うのもわかる。
でもそれは笑騎を想ってやったことや。
美鈴は何度も笑騎に謝ったみたいやけど、聞く耳を持ってくれへんかったみたいや。
だいたい笑騎がアニメの女なんかに夢中になってなかったらこんなことにはならへんかったんとちゃうん?
美鈴にやめろと言ってもやめへんかった自分のことを棚に上げて、美鈴を不倫妻と罵った。
だいたい男と1回寝たくらいで何が不倫やねん!!
そら美鈴が5年くらい男と関係を持っていたら、さすがに同情はできひん。
けど美鈴は1回だけやし、今でも笑騎のことを心から愛してるのも話をしていたら伝わって来る。
その男ともそれっきりみたいやし、普通の不倫と比べたら可愛いもんやん。
マジで器が小さい男やな……はっきり言って幻滅レベルや。
「笑騎と別れたくなかった……でも笑騎はもう私を愛せないって……」
「愛せないって……そこまで言われたん……」
「私……笑騎のいない世界で生きていくなんて嫌や……そんな生き方するくらいなら、死んだ方がマシや」
「あっアホなこと言うたらあかん!! あんなにラブラブやったやろ? きっと話せばわかるって……」
涙ながらに笑騎を失ったことを嘆く美鈴。
男と関係を持ったことも反省してるって言ってる。
女を泣かせてここまで言わせる笑騎に私は殺意に近い怒りを覚えた。
「わかった! 私が笑騎と話を付ける! 美鈴を泣かせるなって言う!」
「まっ待って! 笑騎とは私から話をしたい……話せばわかるって遥ちゃんも言ってたやろ?
私、笑騎のこと信じてる。 きっとまた一緒に暮らせるって信じてる」
何度か私が話を付けると言っても美鈴は首を縦に振らんかった。
自分の言葉じゃないと、自分の気持ちは伝わらないからやって。
ホンマ健気な子やで。
正直あんな冷酷なデブにはもったいないわ。
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でもそれが間違いやった。
それからしばらくして、美鈴は殺人と放火の罪で逮捕されたとニュースで知った。
「そっそんな……」
私はすぐ美鈴のいる留置所に走った。
「美鈴!」
「……」
そこで見たのは、以前よりやつれてゾンビみたいに変わり果てた美鈴やった。
「美鈴……どなんしたん?」
「あっ遥ちゃん! わざわざ来てくれたん?」
容姿とは裏腹に、美鈴の声音はとても明るかった。
まるで結婚前の美鈴みたいや。
「美鈴……なんでこんなことになったん?」
美鈴によると……美鈴はあれから何度も笑騎と話そうとしたけど、笑騎は全く聞く耳を持たへんかった。
しかも美鈴の両親が美鈴を東京に引っ越させて、2人引き離そうとしたみたいや。
追い詰められた美鈴は笑騎の実家に入り、彼の部屋のアニメグッズを燃やそうとしたみたいや。
しかも、笑騎の母親が美鈴を警察に突き出そうとしたらしく、キレた美鈴が階段から突き落としたらしい。
その結果、笑騎の母親は死亡し……その家も灰になり……隣に住んでいた人達も死んだ。
「それより遥ちゃん。 笑騎は元気にしてる?」
「えっ?」
「ここの人達、何べん言っても笑騎に会わせてくれへんねんで? ひどいと思わん?」
美鈴は何度も”笑騎に会いたい”、”笑騎と話したいを繰り返し、事件に関してはほとんど無関心やった。
そして私は理解した。
もううこの子の心は罪悪感を感じられへんほど壊れてるんやと。
親友の変わり果てた姿に悲しみを覚えるのと同時に、美鈴をここまで追い込んだ笑騎に対する怒りがふつふつを湧いてきた。
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裁判の結果、美鈴は死刑判決を言い渡された。
美鈴の人生はもうこれで終わりや。
でもホンマにそれでええの?
確かに美鈴のしたことは許されへんことかもしれん。
でもその原因を作ったのは笑騎や。
あいつがつまらん不倫で離婚なんかせえへんかったら……美鈴の話を少しでも聞いてくれたら……趣味なんか捨てて美鈴を大切にしてくれたら……こんなことにはならへんかったんとちゃうん?
私は笑騎を呼び出して、この怒りをぶつけた。
そうでもせえへんと、虫が収まらへんかったからな。
『俺はな!! おかんも家も……全部なくしたんや!!
それがどんなにつらいかお前にわかるんか!!
なんも知らんくせに、えらそうなことばっか言うな!!』
ところが笑騎は、私の胸倉を掴んで怒鳴り声を上げよった。
自分のことを棚に上げて、逆ギレもええとこや。
女に手ぇまで上げるなんて……こんな最低男のために人生を棒に振った美鈴が可哀そすぎる。
笑騎はすぐに警察に取り押さえられ、私はどうにか助かった。
私はこのクズ野郎を暴行事件として訴えたんやけど却下された。
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あれから何度か美鈴と面会しようとしたけど、彼女は精神を壊して面会不可となってしまっていた。
笑騎もその後、この町から姿を消してしまい、私にできることはなくなった。
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笑騎の暴力事件から2ヶ月が経った。
私はいつもと変わらない生活を送っている。
仕事で家のことができない夫のために、主婦として母としての役割を果たし続けている。
でもその中で、気になることがある。
夫である司のことや。
最近流行っている新型ウイルスで患者が増大し、家にいる時間が大幅に減ってしまった。
まあ感染リスクもあるから家にいられないのは仕方のないこと。
だから定期的に連絡を取るようにしてる。
子供もまだ小さいし、私も司の体調が気になるからな。
3ヶ月くらい前までは週に何度か連絡を取ってたんやけど、最近は週に2回くらいしか連絡をよこさへん。
こっちから連絡しても繋がらんことが多いし。
『患者の対応で忙しいんやから仕方ないやろ?』
そのことを問い詰めても、この一言で済ませてしまう。
たまに着替えを取りに帰ってきても、すぐに出て行ってしまう。
でもあきらかに変わったかと言うとそうでもない。
司は仕事一筋な男で、家に生活費を入れるも私や幸助の相手をほとんどしない。
たまの休みも家族サービスなんかせず、自由気ままに自分のために時間を使っている。
夫婦としての触れ合いなんかもあまりなく、最近はまともに会話すらしていない。
新婚時代はそれなりに優しかったんやけど……。
そんな司に愛想が尽きないのは、司を愛しているというのもあるが、もう1つ大きな理由がある。
それは、司の病院で入院している父や。
父は数年前に重い病気を患い、治療するには大きな病院に入院する必要がある。
でもそのためには莫大な治療費が掛かる。
司は父の治療費を負担してくれ、設備の整った病室まで用意してくれた。
だから家族に対して無関心という訳やない。
司には感謝してるけど、ここ最近の態度はあんまりや。
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「もしもし……佐久間司の妻ですが……」
私は司の病院に電話を入れた。
司と連絡が取れない以上、病院に連絡を入れるしかない。
私は電話に出た受付に司を出してくれるように頼んだ。
「あの……佐久間院長は本日、休暇を取っているのですが……」
「……はっ?」
受付の言葉に、私はすっとんきょうな声を出してしまった。
司は今日から病院にしばらく泊まると聞いていた。
でも受付が言うには、司は今日休暇を取っているらしい。
しかも病院に泊まるようなことは滅多にないとまで聞かされた。
「どっどうなってるん?」
私は胸騒ぎを覚え、探偵に頼んで司の素行調査を依頼した。
2週間の調査の結果、司が不倫しているのが発覚した。
しかもその相手はまだ20歳の女の子。
「ふざけんなっ!!」
私は怒り狂った。
今まで妻として母として尽くしてきた私を裏切って、こんな若い子と不倫していたんや!!
こんなん許せる訳ないやろ!!
不倫なんかしやがって!! あのクズ野郎!!
すぐに続きを更新します。