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重森 美鈴②

美鈴視点です。

思ったよりかなり長くなりました。

どうも彼女の視点で話を書くと、頭がおかしくなりそうです。

 健司と寝た日の翌朝、私は自宅に帰った。

笑騎は寝室で寝んとソファーで寝ていたのには驚いたけど、私はいつも通り朝食の用意を始めた。

しばらくすると笑騎は起きたので私は普通に挨拶をした。


「おはよう~笑騎」


「!!!」


 私の顔を見た瞬間、笑騎の顔はこわばってしもた。


「いつまで寝てんの? っていうかなんでソファで寝てるねん!」


「おっお前、何してんねん」


「何って見ての通り朝ごはん作ってるんやけど?」


 受け答えしているうちに、笑騎が昨日の件で動揺していることがわかってきた。

私はこれまでどれほどつらい思いをしていたのかを、その場で吐き出した。

笑騎もこれで自分を見つめ直してくれるやろう。

……そう期待していた私の耳に、信じられへん言葉が飛び込んできた。


「……もう離婚しよう」


 笑騎が何を言うてんのかさっぱりわからんかった。

私を信じられなくなったから……愛し続ける自信がなくなったから……笑騎は私を別れようとしている。

でもそんなの私は認めへん!!


「このままお互いに不信感を持ったまま一緒にいても、俺ら幸せにはなられへんよ」


「なれるよ! だって私達愛し合ってるやん! 愛さえあったら、私達は幸せになれるよ!!」


「だからその愛っていうのが、俺の中で薄れてんねん!」


 やめて! そんな悲しいこと言わんといてよ!!

私達の愛はこんなことで壊れるものやったの!?


「なんで?……やっぱり二次元なん? 笑騎は私より二次元女の方が大切なん?」


「わからん……そんなのわからへん……はっきりしてるのは、俺はもう美鈴を愛せないってことだけや」


「そんな……そんな……」


 こんなの悪い夢や……そうに決まってる。

そうでなかったら、笑騎が私と別れたいなんで言うはずがない!!

でも笑騎は、私を置いて部屋を出ようとしている!!


「……!! 笑騎、待って!!」


 必死に呼び止めるも、笑騎は待ってはくれなかった。


-----------------------------------------


 後日、弁護士を挟んでの話し合いが私の実家で行われた。

そこには笑騎と私、それと私の両親も参加していた。

笑騎と弁護士はラインのスクショと例の動画を不倫の証拠として提示し、改めて離婚したい旨を伝えてきた。

もちろん私は離婚に応じようとはしなかった。

だって、笑騎のことを心の底から愛してるもん!!


「笑騎……娘が本当に……申し訳ないことをした……」


「ほんまに……なんてお詫びをすれば……ごめんなさい」


 だけど、両親はそんな私の気持ちを察するどころか全面的にこちらの非を認め、離婚にも応じようとする。

私と笑騎の結婚を誰よりも喜んでくれていたのに、今は手のひらを返したように私達の離婚に賛同している。

実の親として信頼していた分、裏切られた気分やった。


「私は離婚なんて絶対に嫌や!! お願い、笑騎!! 私ともう1度やり直そう?

もう2度とあんなことせえへんから!!」


 もう離婚に反対しているのは私しかいなかった。

笑騎に私の気持ちを察してほしくて健司と寝たけど、笑騎は不倫としか受け止めてくれへんかったみたいや。

私は必死に離婚の撤回を懇願したけど、笑騎は聞く耳を持ってくれへんかった。


「笑騎を裏切っておいて、何がやり直そうや! 都合のええことばっかり言うんやないぞ!!」


「そんなことする暇があるなら、笑騎君に誠心誠意謝罪しなさい!!」


 両親は離婚したくないと懇願する私に叱責して復縁を遮ろうとする。

その後の話合いもほとんど両親と弁護士が進め、離婚したくないという私の意志は無視された。

結果離婚が決まり、夫婦の共有貯金は分け、慰謝料を支払うことになった。

でも金なんてどうでもいい……離婚が決まったことだけが、ただただショックやった。


-----------------------------------------


 後日、離婚届が郵送されてきた。

私は最後の抵抗に、サインを拒もうとしたが……。


「ええ加減にせえ!美鈴!」


「不倫したあんたが悪いんやろ!!」


 両親がそれを許してくれなかった。

しばらく粘ったが、最終的にテーブルに押さえつけられる形で無理やりサインを書かされた。


-----------------------------------------


 離婚が成立した後、私は私物をまとめるためマンションに帰った。

両親が実家に帰ってきなさいと言われたのがきっかけやけど、笑騎が帰ってこないんなら、どの道私には不要や。


「あっ!」


「……」


 そう思っていた部屋から、笑騎が出てきた。

彼の顔はとてもやつれていて、私を見た瞬間、目までそらされた。


「笑騎……あの……」


「さよなら……」


 笑騎はそれだけ言うと、足早にその場を立ち去って行った。


「しょう……き……」


 1人残された私はその場で泣き崩れた。

一体どうしてこんなことになったの?

健司と寝たから? だから笑騎は行ってしまったん?

私はただ……笑騎の目を覚まそうとしただけやのに……。

ただ笑騎に愛されたかっただけやのに……。


-----------------------------------------


 私物をまとめ終わった後、私は笑騎の実家を訪ねた。

もちろん笑騎と話し合って再婚してもらうつもりや。

私は希望を胸にインターホンを鳴らす。


「あっ……あんたは……」


 家から出てきたのは笑騎ではなく、彼の母親だった。


「あの……お義母さん。 笑騎はいますか?」


「……もうあんたお義母さんちゃう。 ほんで笑騎になんの用や?」


 お義母さんの私を見る目からは、憐れみがにじみ出ていた。


「笑騎と話をさせてください!」


「……それはできひん。 もうあんたと笑騎は他人や」


「そっそんな……私と笑騎は愛し合って……」


「私もそう思ってたよ。 でもな? 夫婦っちゅうんは、お互いに信頼し合って成り立つもんや。

疑念を抱いたまま夫婦を続けてもお互いにつらいだけとちゃうか?」


「だっだから話し合うんです! 話し合えばきっと私達はまた愛し合えるはずです!!」


「万が一そうやったとしても、今はやめといてくれへんか?

あんなアホでも、私の大事な子供なんや。

これ以上あの子のつらい顔は見たない。

あんたが本当にあのアホを愛してるなら、今はそっとしたって……」


 そう言うと、お義母さんは家の中に戻ってドアを閉めてしまった。


※※※


 しばらくインターホンを押し続けたが、誰も出てきてくれなかった。

1時間後に、両親が私を迎えに来た。

お義母さんが電話で知らせたみたいや。


「美鈴! 帰るで? もうこれ以上笑騎に迷惑掛けんな」


「嫌や!! 私は笑騎に会う!!」


「美鈴!! あんたホンマにええ加減にしぃや!!」


 激しく抵抗するも、結局私は父の車に押し込められ、強制的に帰宅させられた。


-----------------------------------------


 あの日以降、両親は私が笑騎と会わんように監視するようになった。

スマホでの連絡も、全てブロックされていた。

別アカウントを作成してラインしても、すぐにブロックされる。

両親の隙を見て笑騎に会いにいったこともあったけど、結局話すことはできず、両親に連れ戻される。

ついには弁護士を通して接近禁止まで言い渡された。

私はただ笑騎とやり直したいだけやのに......。


----------------------------------------


 離婚してから半年後、父が実家を引っ越すと言い出した。

その理由は、私を笑騎から引き離すため。

私の実家と笑騎の実家は徒歩10分で往復できる距離にある。

だから今まで何度も笑騎のところに足を運べた。

だけど、引っ越して距離が開けばそれも難しい。

しかも、引っ越し先は東京。

大阪まで気軽に来れる距離じゃない。

私だけ残るなんてことは両親が許してくれへんかった。

そら引っ越すために、父はわざわざ転勤願いまで出すくらいやかなら。


「なんで私まで引っ越さなあかんの!? 2人だけで引っ越せばいいだけやん!!


「何回言うても、あんたが笑騎君のところに行くからや! これ以上彼に迷惑掛けたらあかん!」


「東京で頭を冷やせ! もう笑騎に関わるな!」


 ひどい......なんでそこまでして私達を引き離そうとするん?

子供の幸せを第一に考えるのが親とちゃうんか!!

私を遠ざけるのが笑騎のため?......こいつら頭が腐っとるんか?

笑騎は私の全てや!

笑騎がいない人生なんていらん!!

笑騎だって心の底では私を想ってくれているはずや!!

こんな親の自覚すら持ってないやつらなら、黙って従う義理はない!


-----------------------------------------


「……」


 引っ越し前夜、両親が早めに寝静まったのを確認した私は笑騎の実家に向かった。

この時の私には、もうこの家に……両親の元に戻る気は一切なかった。


-----------------------------------------


 笑騎の家に着いた私は玄関から回って裏に出た。

インターホンを押して正面から訪ねてもすぐに追い返されるだけだから。

笑騎の家の裏にはブロック塀があり、そこをよじ登れば2階の笑騎の部屋のベランダに入れる。

高校生の頃、デートで門限を守れなかった笑騎がよく使っていた方法だ。

デスクワークの毎日を過ごしている私には少しきつかったけど、なんとか登りきることができた。


「笑騎? 私やけど、おる?」


 ベランダをノックして呼びかけるも返事はなかった。

カーテンの隙間から覗いてみると、笑騎は部屋にはおらんかった。

部屋には、私と笑騎の愛を引き裂いた二次元女共のポスターやグッズ、フィギュアが山のように置いてあった。

私は笑騎と離婚して話すことすらできないのに、こいつらは笑騎を毎日見つめている。

たかが空想上のまがい物が、どうしてここまで私と違うの?


「……」


 私の中の何かが音を立てて崩れ去った。

私はベランダに洗濯物を干すために置かれている物干し竿でベランダのガラス割り、空いた穴に腕を通して鍵を開けて中に入った。。

元々古い家なので、ボロい物干し竿でも予想以上にもろかった。


「死ね! クソ女共!!」


 私は手にしていた物干し竿を振り回し、部屋中にあるグッズを壊そうとした。

でもいくら物干し竿があっても女の細腕では、多少傷をつけることしかできひんかった。


「ちくしょう!!」


 私は悪態をついて物干し竿を床に叩きつけた。

ポスターやカード類なら破くことができたけど、それだけじゃこの怒りは収まらん!!


「誰や!!」


 そう言って部屋に入ってきたのはお義母さんやった。

まあ部屋の中で暴れていたら、気付くのも無理ないか。

目が合った瞬間、お義母さんの顔は化け物でも見たような恐怖に震えあがった。


「あっあんた……どっから……笑騎の部屋で何してんの!?」


「お義母さん……それより笑騎はどこですか?」


 私はお義母さんの言葉を無視して笑騎の居場所を問いただす。


「すぐにここから出て行き!! 出て行かへんなら警察を呼ぶで!!」


 お義母さんはそう警告するだけで笑騎の居場所を言わへん。


「言う気がないならほっといてもらえますか? これは私と笑騎……夫婦の問題ですから」


「……それがあんたの答えか」


 お義母さんは諦めたかのようにそう呟くとスマホを操作しながら部屋を出て行った。


「もしもし! 警察ですか!? 家に不審者がいるんです!!」


 ドアの向こうでそう聞こえた瞬間、私の中にどす黒い何かが芽生えた。

お義母さんは私を警察に突き出すつもりなん?

娘のように想ってくれていたお義母さんを、私はもう1人の母として信頼していた。

それを裏切ってあの女は私を不審者呼ばわりして警察に突き出そうとしている……許せる訳がないやろ!!


「ふざけんな! クソババァァァ!!」


「あっ!!」


 私はお義母さんの後を追い、階段を降りようとしていた彼女の背中を突き飛ばしてやった。

鈍い音と共にお義母さんは階段を転げ落ち、階段下で動かなくなった。


「あ……う……」


 私も1階に降りてみると、お義母さんはまだ生きてた。

でも体がどっか折れてるのか全く動かず、私に何か言いたげやけど声も出ないみたいや。


「お義母さんが悪いんですよ? 私達を裏切るような真似をしたから」


 自業自得って言葉はお義母さんみたいな人のことを言うんやな。

私は倒れたお義母さんを無視して笑騎がいないか家中を探し回った。

まあ小さな家やから時間は掛からんかったけど、笑騎はおらんかった。

だけどこのまま帰っても、私は引っ越して笑騎から引き離され、笑騎は今まで通りにここであの俗物のある部屋に籠り続けるだけや。


「……そうか。 あんな部屋があるのが悪いんや。 あんな部屋があるから笑騎が私を見てくれへんねんな」


 私は台所で見つけたマッチと酒好きお義母さんがため込んでる数本の酒瓶を持って再び笑騎の部屋に戻った。


「……」


 私は酒瓶の中身を全て部屋中にぶちまけてやると、火を灯したマッチ数本を部屋の中に放り投げた。

酒とマッチじゃ火力が乏しいけど、部屋1つを焼き払うことくらいならできるやろう。


-----------------------------------------


 そう思って外で家を眺めていたら、火はどんどん大きくなっていき、家を包み込み始めた。

でもこれで、笑騎は私を見続けてくれるはずや。

フフフ……今から楽しみやわ!


「なっなんやこれ……」


 背後から聞こえたその声に反応して、私は振り返った。

そこには私の愛しい笑騎が立っていた。

燃えている家に茫然としてカカシみたいになってる……可愛い。


「しょ~き!」


「みっ美鈴。 なんでお前が……いやそれより、なんで家が燃えてるねん!!」


 久しぶりに笑騎から美鈴って呼ばれた……ただそれだけで、私は幸せな気持ちや。


「そんなんどうでもええやん! あっ! 住むとこないって心配してる?

だったらまた、2人で同棲しよう?」


「お前何を言って……まさか、お前がこれやったんか?」


「そうやで? だって必要ないやろ? あんな汚い部屋。 大丈夫! 私がもっときれいで広い部屋を用意するから!」


「おかんは……おかんはどうしたんや!?」


「お義母さん? まだ家の中で寝てんのとちゃう?」


「なっなんやと!?」


 階段から落ちた直後は生きてたけど、その後の生死は知らん。

まあ死んだとしても、私達の信頼を裏切ったお義母さんの自業自得やけどな。


「大丈夫やで? お義母さんが死んだとしても、私がずっと笑騎のそばにいるからな」


「……どけっ!!」」

 

 笑騎は私を突き飛ばすと、燃え盛る家に飛び込もうとした。


「あんた、何してんねん!」


「離せ! おかんがまだ中におるねん!!」


「アホ! 死にたいんか!!」


 一瞬焦ったけど、家の前をたまたま通りかかったサラリーマンや近所に住んでいる男性達が笑騎を押さえつけてくれた。

……よかった。


「笑騎……私はずっと愛してるからな」


次は笑騎視点です。

できればここで異世界に行かせたいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「愛してる」って言葉使ってるけど自身の幸せしか考えてませんねこれ。 放火と殺人の罪で塀の中へ行ってらっしゃい。
[一言] ただ怖いです(ガクブル)
[一言] 物凄いお話だ!ここまで頭おかしい女とは…。 想像の範疇を超えていて、続きがどうなるのか気になるところ。
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