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中田 笑騎②

笑騎視点です。

ざまぁが薄いとは思いますが、現実的にはこんなもんかなとも思ったりします。

 翌朝、俺は目が覚めるとソファーの上におった。

昨日の放心してる間にソファーで寝てもうたみたいや……。


「おはよう~笑騎」


「!!!」


 寝ぼけた頭がその言葉で一気に覚醒した。

俺に朝の挨拶をしてきたのは、いつの間にか帰ってきた美鈴やった。


「いつまで寝てんの? っていうかなんでソファで寝てるねん!」


「おっお前、何してんねん」


「何って見ての通り朝ごはん作ってるんやけど?」


 美鈴のトーンは普段と変わらへん。

いつも通り朝飯を作って、いつも通り俺に笑顔を向けてる。

昨日のことは夢ちゃうかと一瞬思ったけど、ラインの履歴とあの動画が俺を現実に引き戻す。


「……お前、なんでここにいるんや?」


 俺は意を決してソファーから腰を上げる。


「なんでって、自分の家に帰ってきたらおかしいん?」


「お前……昨日何をしたかわかってんのか?」


「……」


 美鈴は一旦手を止めて俺の方に目を向けてきた。

彼女の顔はいつも通りにこやかやけど、今の俺にはそれが一番不気味に思えた。


「……つらかった?」


「……は?」


「だから、私が他の男と寝てるのを知ってつらかった?」


 言葉とは対照的に、美鈴の顔にはまぶしいくらいの笑顔が咲いていた。

人の笑顔がこんなに恐ろしく見えたのはこの時が初めてや。

まして、愛する美鈴の顔がこんなに歪んで見えるようになるなんて……俺の頭がどうかなってしまいそうやった。


「なっ何を言うてんねん! お前わかってんのか!? これは不倫やぞ!!」


「不倫? 何を言うてんの? 私が不倫なんかする訳ないやろ? 私は笑騎一筋なんやから」


「何が一筋や!! お前知らん男と寝たんやろが!! 俺にあんな動画まで送って!!」


 俺は昨日美鈴が送ってきたラインを開き、スマホの画面を突き付けた。

そこには昨日のやり取りだけでなく、行為中の動画も映ってる。

不倫の証拠としては十分やけど、俺自身が納得するには不十分やった。


「なんでや美鈴……なんでこんなことしたんや?」


「笑騎……私がどんだけ寂しかったか知ってる?」


「えっ?」


「笑騎が二次元の女に夢中になっている間、私がどれだけつらかったかわかる?」


「それは……」


「私がこんなに笑騎のことを愛してるのに、笑騎は二次元の女ばっかり目を向けるやん。

グッズやゲームを売った時だって……笑騎、本気で怒ったやろ? それがどんだけ悲しかったかわかる?……わからんやろ? だって笑騎は愛してる人に蔑ろにされたことがないんやから」


「……だから不倫したっちゅうんか?」


「不倫なんて言い方やめて。 あの男のことは最初からなんとも思ってへんし。

私はただ、笑騎にもっと私のことを見てほしかっただけやねん」


「……だったらこんなことせんと、きちんと話し合ったらよかったんとちゃうか?」


「私は何度も言ったよ? あんな趣味はやめてって……でも笑騎は聞く耳持たんかったやん。

昨日だって家族との時間よりも、くだらんイベントを優先したやん。

だから笑騎にわかってもらうには、もうこうするしかなかってん……笑騎ならわかってくれるよね?」


 美鈴は俺の胸に体を預け、甘えるように俺の肩を掴んだ。


「!!!」


 俺は無意識に美鈴の手を振り払い、体を離した。


「どっどうしたん?」


 美鈴はキョトンとした表情で俺の顔を覗いてくる。

俺がこの世で一番美しいと思っていた美鈴の顔が、今はただ恐怖の対象にしか見えない。

それが俺自身の答えやとわかるのに、そう時間は掛からんかった。


「……美鈴」


「何?」


「美鈴にはすまんことをしたと思ってる。

なんにも知らんと二次元にはまってお前に寂しい思いをさせてしまった……それは俺の責任や。

ほんまにごめん」


「笑騎……わかってくれるって信じてたで!」


 想いが成就したとでも言いたげな涙を流し、俺に近寄る美鈴。

でも俺は美鈴から距離を置き、話を続ける。


「そう思ってるけど……俺はこれ以上美鈴のことを愛する自信がない」


「……なっ何言うてんの?」


 俺の言葉を聞いた瞬間、美鈴の笑顔が絶望に染まった。


「俺にも非があるのはわかってるつもりや。 でもやっぱり……好きでもない男と簡単に寝ることができるお前のことが信用できひん」


「なっ何アホなこと言ってんの!? 私達、あんなに愛し合ってたやん!! ほんまにあの男とは1度きりの関係で、なんの感情もないから!!」


「回数や感情の問題やない……俺自身の問題や。 もう離婚しよう……」


「そんな……そんなこと言わんといて!!」


 離婚と言う美鈴の最も聞きたくないワードを耳にしたせいか、美鈴は涙ながらに懇願してきた。

でも俺には妻の不倫を許せるような広い心も理解力もないみたいや。


「このままお互いに不信感を持ったまま一緒にいても、俺ら幸せにはなられへんよ」


「なれるよ! だって私達愛し合ってるやん! 愛さえあったら、私達は幸せになれるよ!!」


「だからその愛っていうのが、俺の中で薄れてんねん!」


「なんで?……やっぱり二次元なん? 笑騎は私より二次元女の方が大切なん?」


「わからん……そんなのわからへん……はっきりしてるのは、俺はもう美鈴を愛せないってことだけや」


「そんな……そんな……」


 ショックを受けて膝を崩す美鈴を横目に、俺は玄関に向かい、靴を履いた。

美鈴との思い出が詰まったこの部屋にいるだけで、心が悲鳴を上げるねん。


「……!! 笑騎、待って!!」


 我に返った美鈴が俺を呼び止めるが、俺は構わず部屋から出て行った。



-----------------------------------------


 後日、俺は友達に紹介してもらった弁護士と離婚に向けて話を進めることにした。

ラインと動画と言う、言い逃れのできない決定的な証拠を持っているため、離婚は確実にできる。

美鈴の不倫相手である健司も顔が動画にバッチリ映ってたから、身元を調べるのに手間はかからんかった。

俺は弁護士を通して健司に慰謝料を請求した。

1度の不倫と言うこともあり、相場より低い金額やったけど、健司には痛手や。

なんでも健司は34歳にもなって未だに親のすねをかじるニート野郎。

驚いたことに人妻と不倫関係になったのは、これで8回目らしい。

当然そいつは慰謝料の支払いで借金まみれや。

今まで我が子やからと甘やかしてた親も、さすがに呆れて勘当したみたいや。

俺から言えば、遅すぎる決断やけどな。

ほんで当の健司はというと……。


『元はといえば、嫁に寂しい思いをさせた旦那が悪いんやろうが!!』


『旦那のせいで勘当されたんや!! 慰謝料よこせ!!』


 反省なんぞ欠片もなく、逆ギレしてギャーギャー騒ぎよる。

相手してる弁護士の先生もうんざりしてて『法が許すならあいつの喉を潰して黙らせたい』と愚痴をこぼす始末。

まあなんとか慰謝料は取れたけどな。

健司も親のすねをかじれなくなったから、この先苦労するやろな。

まあ俺には関係ないけど!


-----------------------------------------



 この日、俺は弁護士の先生と一緒に美鈴の実家で、離婚についての話を進めていた。

メンバーは俺、弁護士の先生、美鈴、お義父さんとお義母さんの5人や。

弁護士の先生は義両親に美鈴の不倫を説明し、証拠も提示した。


「笑騎……娘が本当に……申し訳ないことをした……」


「ほんまに……なんてお詫びをすれば……ごめんなさい」


お義父さんとお義母さんは土下座して俺に謝罪し、お義母さんに限っては顔を手で覆って泣き出してしまった。

ガキの頃から色々世話になってた2人にこんなことをさせてしまったことに、俺はひどく心を痛めた。


※※※


「私は離婚なんて絶対に嫌や!! お願い、笑騎!! 私ともう1度やり直そう?

もう2度とあんなことせえへんから!!」


 一方の美鈴は、離婚を断固として受け入れなかった。

両親に土下座させているにも関わらず、美鈴は涙ながらに復縁を求めてくる。

俺を想うあまりかもしれへんけど、両親を蔑ろにするその態度に、あまり良い思いはせえへんかった。

美鈴に強く言えばよかったんやろうけど、俺にそんな勇気はなかった。

我ながら女々しい男や。


「美鈴! いい加減にしなさい!」


「あんた、自分が何やったかわかってるの!?」


 そんな俺の代わりに美鈴を怒鳴ったのは、お義父さんとお義母さんやった。


「笑騎を裏切っておいて、何がやり直そうや! 都合のええことばっかり言うんやないぞ!!」


「そんなことする暇があるなら、笑騎君に誠心誠意謝罪しなさい!!」


「……」


 両親にそう言われ、美鈴は押し黙った。


-----------------------------------------


 2週間後、俺は離婚届を役所に提出した。

離婚届を記入する際も、美鈴はかなりごねてたみたいやけど、義両親が半ば強制的に書かせた。

共有財産は分け……慰謝料については俺にも非があるし、請求しないでおこうと思ったんやけど、義理堅いお義父さんに「けじめをつけさせてくれ!」って懇願され、相場の範囲の慰謝料をもらうことにした。


-----------------------------------------


 離婚成立後、俺はマンションから出て実家に帰ることにした。

介護施設は実家の方が近いから続けるつもりやけどな。


「あっ!」


「……」


 荷物をまとめて部屋から出た際、美鈴と鉢合わせになった。


「笑騎……あの……」


「さよなら……」


 美鈴は何か言いたげやったけど、俺は彼女を振り切ってその場を後にした。

8年間も一緒にいたっちゅうのに、なんともあっけない終わりやった。


次話は美鈴視点です。


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[気になる点] 狂ってる嫁と狂ってる主人公の漫才見させられてこのあとどういう気持ちで読めばいいんだ?ただイライラしただけ
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