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第二話 目覚めと出会い


 目が覚めると、そこは見知らぬ部屋の中だった。


「?? ここは一体……? 」


 木造りの壁と床、机と自分が今寝ているベッド、棚と壁に備え付けられているランプといった、シンプルな部屋のレイアウトが轟の視界に映りこんだ。


 伸びをして深呼吸をした後、掛け布団をめくると、見覚えのない肌着を纏っていることが分かった。


「あれ、俺いつのまにこんな肌着になってるんだ?」


 深呼吸をした際に吸い込んだ木材の香りと、自分の服がジャージから半袖半ズボンの灰色の肌着に変わっていたことから、轟はこれが夢ではなく現実だということを再認識した。


「俺がこうして五体満足で無事だっていうことは、あのバケモンは死んだってことでいいんだよな。というか、あの人達は無事なのか!?」


 そうしてベッドから飛び降りようとした時である。部屋のドアが勢いよく開いた。


 空いたドアから部屋に入ってきたのは、あの甲冑姿の大男だった。


「おう阿呆。元気そうで何よりだ。ま、丸1日寝てりゃ元気になるか」


 立派に蓄えた髭と後ろにまとめ上げた薄茶色の髪、2メートルはゆうに超す全身を覆う純白の甲冑、背中に携えた深紅の弓を持った大男の姿を見て、只者ではないオーラを感じ取った轟は慄き元居たベッドに静かに座り込んだ。


 轟は、陰キャではあるが決して初対面の人と話すのが苦手なわけではない。


 この大男が自分をここまで運んで世話してくれたのなら、多少見た目が厳つくてもお礼を言うのが筋だと思い、慄きながらも口を開いた。


「えと、俺をここまで運んでくださりありがとうございます。あの、壁の上にいた人達は全員無事なんですか?」


「ああ、もちろん無事だ。なんせこの俺が弓で奴の頭をはじき飛ばしたからな。」


「ええと、つまりあなたがあの化け物を退治したと?」


「そうだ、ついでにお前もふっとんでいったがな。アッハッハッハ!!!」


 ー-なるほど、つまりこの大男並びに類人猿が俺を吹き飛ばした張本人か。


 ー-あの人達も全員無事ならなによりだ。でも、でもなあぁぁぁ……


 轟の心の中で感謝の念ははじけ飛び、殺害されかけた怒りの念が猛烈に込み上げていった。


「あんた、何してくれてんのぉぉぉぉぉぉ!? バケモンに殺されるならまだしも、同じヒト化ヒト族に俺は殺されかけたってことじゃないすかぁぁぁ!!! 殺人未遂っすよこれぇぇぇぇぇぇ!!!」


「おめぇが森の奥に入ってあいつに目ぇ付けられたのが原因だろうがど阿呆! だいいちお前、なんで森の中に装備も無しに入ってたんだよ!? 死にたかったのか、ああん!?」


「俺も急に知らない森の中でパニくってたんすよ!!! 助けて貰ってなんですけど、吹き飛ばす以外やりようなかったんすか!? そりゃあ、気絶した俺をここまで運んで着替えまでさせてくれたことには感謝してますけども」


「おめぇ、そういや見慣れない服着てたもんな。この国の住人じゃないのか? あと、お前をこの部屋まで運んで着替えさせたのは俺じゃねえぞ」


「ええ、ここが何処かもよく分かってないですし。って、今なんて?」


 ー-そう、ここは一体どこなのか。が、それより気になることを大男は言った。


 ー-今、こいつはなんて言った? ここまで運んで着替えさえたのは俺じゃないだと?


「確かに、お前は俺の矢の爆発に巻き込まれて気絶してた。だがな、俺はその後奴の死体処理と素材回収で忙しかったのでな、お前の回収は一緒にいた仲間に任せっきりだったよ」


「んなっ……」


「そしてお前は俺の娘が営む宿屋の一室に運び込まれたってわけよ。つまり、俺は何もしていない!」


 ー-この人でなし類人猿、どうしてくれようか。


「じゃあ、着替えもその仲間の方がしてくれたんですか? あと、俺のジャージ、じゃなくて、俺の着ていた服はどこに?」


「いいや、仲間は死体処理の手伝いがあって忙しくてな、お前を宿屋の入り口に放り投げた後は宿屋の手伝いをしてる俺の孫に任せたって話だ。着てた服も孫に聞いた方がいいだろうな」


「放り投げたんすか! この類人猿共、もっと人のこと優しく扱えないんすか! まあでも、お孫さんには感謝しないとですね」


 この大雑把類人猿とは違って、よくできたお孫さんに心の中でどんな風に感謝を伝えようか考えていた所、ドアをノックする音がした。


「お、丁度よかった。俺の孫が来たようだな。入っていいぞー」


「し、失礼します!!!」


 部屋に入ってきたのは、薄茶色のよく手入れされた長い髪、まだ幼さが残るが整った顔、透き通った空のような青い瞳をした美しい少女だった。


「んんん??? ええええええぇぇぇ!!!???」


 そう、轟は、大男の孫をずっと男の子だと思っていたのである。


 ー-いや、これはだいぶまずいぞ。何て話せばいいか全く分からん!


 そう、轟は男性とは話せても女性と話した経験が皆無に等しいため、ここで気の利いたお礼を言いたくてもどのように言えばいいのか全く分からなかった。


「お、俺のお世話をしてくださり、あ、ありがとうございます! え、ええと、今おいくつなんですか?」


 --何聞いてんだ俺はよぉぉぉ! 絶対他に言うことあっただろうが!!!


「なんだ、うちの可愛い孫が気になるってか? まあ、リゼは村一番の美人だと俺が自負してるからな、アッハッハッハ!!! 歳は今年で15だ」


「あんたに聞いてねえよ類人猿!!! てか、15歳!? 俺より年下なんですけどぉぉぉ!?」


 リゼというその青い瞳の少女は、この類人猿と違って内気な女の子のようで、轟の出す大声に肩をビクビク震わせている。


「あ、うるさかったよね。ご、ごめんなさい…… 君がの世話を全部してくれたのかな?」


 轟は、怖がらせないよう、そして、年下の女の子に


「は、はい、そうです…… 宿屋の前に白目を向いて捨てられていたので、父が身体を拭いた後に部屋に運んで私がお着替えをさせて頂きました……」


「じゃあ、僕が着てた服は今干してある感じかな? 洗濯までしてくれてありがとうね」


「いえ、その、確かに服が泥まみれだったので洗濯はしたのですが……」


 リズは申し訳なさそうな顔でこちらを見つめている。


「ほ、干そうとした際に近くの家でボヤがあったので、消火のために使わせて頂きました…… そ、それでほとんど燃えてしまいましたが……」


「あー、うん、ま、まあ、それはしょうがないよ……」


 俺の粗末なジャージでボヤを消化できたのなら良かったよと思うのと同時に、轟は一つのとんでもない結論を導き出していた。


「あれ、着替えはリズさんがしたんだよな。上下着替えさせたってことは……」


 ジャージが燃えたのはこの際些細なことだ。だが、この少女は着替えは自分がしたと言っていた。


 轟は、恐る恐るリズに質問をした。


「えと、リズさん。俺の着替えはリズさんがしたんだよね?」


「はい、そうですが……」


 ー-そう、つまり……


「ええと、お、俺の下半身の○○も見、見たってことですかね!?」


「は、はい、あの、その、とても小さかったです……」


 その言葉を聞いた直後、再び轟の意識は深い闇に沈んだ。


 

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