月からきたうさぎさんがおたんじょうびにもらった手紙のおはなし
気がつけば おひさまはとっくにおうちに帰ってしまったようです。
「ふうー」
うさぎさんは大きくいきをはきました。
でも、とどけなければいけない手紙はあと一通だけのこっています。
これが終わったら、あとはあれをまつだけです。
「うさぎさん。うさぎさん」
うさぎさんがふりむくと そこにはうさぎさんと同じ「ゆうびんはいたつや」さんのふくろうさんがいました。
「おや、ふくろうさん。こんばんわ」
「うさぎさん。うさぎさん。もうおひさまはおうちに帰ってしまったよ。よるの『はいたつ』はぼくのお仕事。うさぎさんはもうおうちへ帰って休んで」
ふくろうさんのやさしいことばに、うさぎさんはにっこりとします。
「うん。ありがとう。でも、あと一通だけ、とどけなければならない手紙が。あれ?」
うさぎさんは一通だけのこっていた手紙を見てびっくり。
だってその手紙はふくろうさんあてだったのですから。
「あははは。一通だけのこっていた手紙、ふくろうさんあてだったよ。はい。ふくろうさん」
「ありがとう。うさぎさん。あ、山のむこうの森にいるお母さんからだ。うれしいな」
にこにこしながらもらった手紙を読むふくろうさん。うさぎさんもそれを見てにこにこしています。
「あ」
ふくろうさんは気がつきました。
うさぎさんにはお母さんから手紙がこないのです。
どうしてかって?
このうさぎさんは「月のうさぎ」。
たった一人で、まっくらな宇宙の中をとびはね、とびはね、この地球にやってきたのです。
うさぎさんのお母さんはまだ月にいるので地球には手紙をとどけることができない。そのことをふくろうさんはおもいだしました。
「ごめんね。うさぎさん。ぼく一人でよろこんじゃって」
あやまるふくろうさんをうさぎさんはふしぎそうに見ています。
「え? だって、うさぎさんのお母さんは月にいるから、うさぎさんは手紙をもらえないのに、ぼくが一人でよろこんじゃって」
うさぎさん、またにっこりわらっていいます。
「それはちがうよ。ふくろうさん」
「え? どういうこと? うさぎさん」
「ちょうどよかった。きょうはぼくのたんじょうびなんだ。もうすぐぼくあての手紙が送られてくるから、いっしょに見ようよ。ふくろうさん」
うさぎさんがなにをいっているのか。ふくろうさんにはさっぱりわかりません。
でも、いっしょに見ようといわれたので、そうしようとおもいました。
「あ、もうすぐはじまるよ」
うさぎさんがゆびさした夜空にひとつ流れ星がおちました。
「あ、流れ星」
そうつぶやいたふくろうさんにうさぎさんはいうのでした。
「ふくろうさん。ぼくの耳の上に羽をのせて。流れ星のこえがきこえるよ」
ふくろうさんはいわれたとおり、うさぎさんの耳の上に羽をのせました。
するとどうでしょう。
「おたんじょうびおめでとう」
そんなこえがふくろうさんにもきこえたのです。
「え? いまのは?」
そうはなすふくろうさんにうさぎさんはにこにこして「しっ」といいます。
そしてそのあとはたくさんの流れ星が空からおちてきました。
「なんてきれい」
おもわずそうはなすふくろうさんの耳にも流れ星たちのこえがきこえてきました。
「おめでとう」
「おめでとう」
「おたんじょうびおめでとう」
「げんきでね」
「またあいたいね」
「たまには月にも帰ってきてね」
「これがうさぎさんのもらった手紙なの?」
そうたずねるふくろうさんにうさぎさんはわらったままこたえてくれます。
「そうだよ。ふくろうさん。たくさんの流れ星にことばをのせてきてくれるんだ。このたくさんの流れ星のことは流星雨っていうんだよ」
「流星雨。すてきな手紙だね」
「うん」
そういってうなずいたうさぎさんはえがおでした。
でも、ふくろうさんにはうさぎさんの目が涙ぐんでいたのが見えたのです。
おしまい