流彗星号最大戦速!
駆け込んできた女性職員にリランドが詰め寄る。
「アリシア嬢が結婚?例の男とは誰だ?」
「ひぃ!男!」
体格の良いリランドが不意に詰め寄ったことで女性職員は真っ青な顔で凍り付いた様に微動だにしない。
「リランド、ここがソロリティであることを忘れているのではないかしら?本来、男子禁制の場所よ?」
キャサリンは呆れた顔をしながらリランドと女性職員の間に割って入る。
「ごめんなさいね。リランドは少しデリカシーに欠けるところが……。」
「ダ、ダリアの君!」
先ほどまで真っ青な顔をしていた女性職員が打って変わって真っ赤な顔で呆けた様になり微動だにしない。
「……あら?」
首をかしげるキャサリンの隣でリランドは軽くため息を吐く。その二人に対し学園長のグレイスは咳払いをして自分に目を向けさせた。
「私が説明いたしましょう。」
―――――――――――――――
「招待状を出した人物は“チョイ・Y・クーデア”。アリシアさんの婚約者を自称する人物です。」
グレイスの言葉にリランドの目が光る。
「婚約者を自称する?と言うことは婚約者では無いことを学園は確認している?」
「はい。以前この方から手紙が来た時にアリシアさんとカークランド家に問い合わせを行いました。と言うのも我がソロリティ学園は親族でも婚約者でも無い人の手紙は取り次がないことになっております。この方の手紙はアリシアさんの入学当時から来ておりました。手紙を渡せない旨をこの方に通達したのですが……。」
「……通達しても送ってくると……。その招待状などの手紙のデーターはまだありますか?差し支えなければ見せていただきたい。」
「古い物は消去しておりますがここ半年のデーターなら……。」
グレイスは自分の端末を操作し自称婚約者であるチョイの手紙の内容を映し出した。
「招待状に記載されている場所はハイラート星系、予定は明日正午。ハイラートまでここから二十光年だったかな?……これが前に送られたデーターだな。」
“愛しのアリシアよ、近いうちに会える算段が付いた。必ず君を迎えに行く”
「……なるほど。算段が付いたので迎えに来た訳か。そう考えると計画的な物だな。」
「ですがリランド。このチョイという男に海賊を雇うだけの力があるのでしょうか?」
「それは調べないと判らないな……。」
単目角内容を見ながら考えるリランドやキャサリンにグレイスが声をかける。
「アリシアさんを無事取り戻すことが……私は宇宙船については門外漢なのであまり知りませんが、ここからハイラートまで高速宇宙船でも三日はかかります。本当にアリシアさんを無事取り戻すことが出来るのでしょうか?」
リランドは必死な形相で尋ねるグレイスに自信満々な顔をした。
「大丈夫、必ず無事に助け出します。俺たちの船は特別製です。それにそれを操る男は連合宇宙軍のエースパイロットだった者です。」
―――――――――――――――
リランドはソロリティ学園にある通信端末から流彗星号を呼び出し事の顛末を説明していた。
「……と言う訳でサバーブ。アリシア嬢の救出は任せた。俺はソロリティで捜査活動を行う。」
リランドからの連絡を受けたサバーブは胸を叩き大きく頷く。
「判った、任せろ。捜査活動と言うことは何か疑問があるのだな?」
「ああ、部外者が知るはずも無い研修航路を知っていたと言うことは、内通者がいるはずだ。それに俺が戻るまで流彗星号が待っていたら救出に間に合わないだろう?」
「宇宙エレベーターでは時間がかかるから仕方が無いな。……偽装はどうする?」
「それも手配済みだ。その宇宙港で預かってもらう算段になっている。」
すると端末越しにサバーブの顔がニヤリと笑った。
―――――――――――――――
惑星モータビアの宇宙港。その一角に客船形状の流彗星号は停泊していた。
「流彗星号、偽装解除。」
連宋が端末を操作すると客船の様に見せていた船体は中心軸から四等分され中から似ても似つかない宇宙船が出現した。
その姿は両刃の短剣に四つの推進器が付いた様な姿をしていて日本刀で言う鎬に当たる部分が大きく膨らんでいた。
「偽装解除確認、流彗星号発進。」
流彗星号はモータビアの宇宙港からゆっくりと発進する。
「連宋、ジャンプの用意をしてくれ。」
「もう済んでいるよ。」
連宋の言葉を聞きサバーブは流彗星号の操縦桿を握り直す。
「流彗星号最大戦速!最大戦速に達し次第、ハイラートへ向けてジャンプを行う!」




