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学園見学 その3

 ソロリティ学園の体育館は目的別に体操、球技、武術など学園生のカリキュラムに合わせて使われる。この体育館は剣術や槍術の試合の他、柔術の様な格闘技もカリキュラムに含まれていた。

 その体育館に並んで一際頑丈そうな建物があった。


「キャサリン、あれは何だ?」


「あれは射撃場ね。メイシー先生……。」


「そうですね、キャサリンさんも懐かしいでしょう。次はそちらにしましょう。」


 リランドが案内された場所は一般的な射撃場に比べ設備が整っている様に思えた。床には薬莢一つとして落ちていない。

 十ほどある射撃レーンでは学園の生徒が熱心に射撃訓練を行なっているのが見える。しかし、どのレーンからも発砲音はしない。


「……音がしないな?」


 首をかしげるリランドにキャサリンが説明の為、一つのレーンに近づく。


「これは消音型のレーザーピストルを使っているからね。“ラピッドファイアーピストル”ではレーザーピストルの使用も許可されている。もっとも、レーザー部門と実弾部門に分かれている大会もあるけどね。」


 “ラピッドファイアーピストル”

 二十五mの距離から規定時間内に六十発の射撃を行いそのトータルスコアを競う競技だ。


 キャサリンは一人の生徒からレーザーピストルを受け取るとターゲットに向かって構えると数秒もかからずに十発の射撃を終えた様だ。

 その腕前に周囲の女学生から黄色い歓声が上がる。


「トータルスコアは98!流石ダリアの君ですわ!」


「キャサリンさんはその“ラピッドファイアーピストル”の学園代表の選手なのですよ。この射撃場にも幾つかキャサリンさんが取った射撃大会のトロフィが飾られていますよ。」


 リランドがメイシー教諭の言葉に頷いているとキャサリンがレーザーピストルのグリップをリランドの方へ向けた。


「どう?リランド、撃ってみる?」


 キャサリンから銃を受け取るとレーンで銃を構えると、リランドもキャサリンに劣らない速度で十発の射撃を終えた。


「レーザーピストルの引き金は少し軽いな……。」


 リランドがレーザーピストルの引き金についての感想を述べている近くで女生徒達が驚きの声を上げていた。


「トータルスコアは98……ダリアの君と同じですわ。」


「ダ、ダリアの君の夫なのだからこのぐらい出来て当然ですわ。」


 女生徒達の声を聞きキャサリンは満足そうな笑みを浮かべた。


 ---------------------


 リランド達が立ち去った後、女生徒達は射撃場の後片付けを行っていた。その中の一人がキャサリンの撃った的のシートを持ちに感嘆のまなざしを向けていた。


「ダリアの君の射撃技術は素晴らしいですね。十発の射撃がほぼ十点の位置にあります。外れた二発も極わずかにずれただけですわ。」


「当然ですわ。ダリアの君は我がソロリティ学園が誇る射撃の達人。その位出来て当たり前です。」


 多くの女生徒が“ダリアの君”ことキャサリンの技量を称えていた。しかし、その中にも十発の弾痕が残るシートに疑問を持つ者もいた。


「……ダリアの君が射撃をなさった後、ダリアの君の夫という人物が同じ様に射撃をしていましたわね。」


「たしかダリアの君と同じレーンで射撃を行っていたはずですわ。スコアも同じ様に表示されたので間違いはありません。」


「では、その者が撃った的のシートは?」


「「「「「……」」」」」


 彼女らの手元には十発の弾痕しか無いシートが残されていた。


 ---------------------


 射撃場を離れる間際、リランドはキャサリンに耳打ちした。


「どうだ?情報を得られそうな後輩はいたか?」


「あの場所にいたのは一年生と二年生だけね。三年生はオリエンテーリングみたいよ。情報を得るなら三年生の方が良かったのですけど……。」


「オリエンテーリングか……。」


「他の惑星への見学やソロリティ星系外周部での演習などね。演習と言っても簡単な模擬戦だけどね。」


「お嬢様にしてはなかなか過激な……。」


 するとキャサリンがにっこり微笑んだ。


「私の代でカリキュラムに入る様にしたのよ。“今の時代、戦闘の体験が無いというのはいかに危険なことか、もし戦闘に巻き込まれた場合どの様に対処しなければならないかと言うことを学ぶ必要がある。”と言ってね……。」


 その言葉を聞きリランドは頭を抱えた。キャサリンの言葉を聞こえたのかメイシー教諭が懐かしむ様に微笑んだ。


「ふふふふ、キャサリンさんは積極的な人でしたからね。そのやり取りは今も先生方の間で語り草になっています。」


「恐れ入ります。ふふふふ。」


 キャサリンとメイシー教諭が懐かしむ様に微笑み合っているとメイシー教諭の端末から呼び出し音が鳴る。


「事務局からね……すこし失礼します。」


 そう言うとメイシー教諭はリランド達から離れ木陰で端末機を開いた。


「はい。メイシーです。……はい、はい……え!ええ!!」


 端末で受け答えするメイシー教諭の顔色は真っ青な顔になっていく。その顔色を見たキャサリンがメイシー教諭に声をかけた。


「メイシー教諭、何かありましたか?」


「……あ、キャサリンさん……。そう言えばキャサリンさんはエキドナ星系の軍人さんでしたね?」


「少し前に退役しましたが星系軍の港湾課に勤めていました。」


 キャサリンの受け答えを聞きリランドは釈然としない顔をする。しかし、メイシー教諭は軍の港湾局と言う組織がよくわかっていない様だ。


「港湾局?」


「主に星系の港を担当する部署です。と言ってもエキドナ星系は辺境なので海賊相手の戦闘もある部署ですが……。警察組織の様なものです。」


 そう言うとメイシー教諭は何かを期待するかの様な表情を見せた。


「海賊相手!それに警察の様なものならこの件は専門でもあるのかしら?」


「……海賊関係なのですか?」


 メイシー教諭はキャサリンとリランドの顔を見回し覚悟を決める様に頷いた。


「……そうです。我が学園の生徒が一人、オリエンテーリング中に拉致されました。相手は海賊のようです。」


「一人?」


「はい。拉致されたのは“アリシア・カークランド”。あなた方も軍関係者ならご存じでしょう。あのカークランド提督の孫に当たる人物です。」

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