学園見学 その1
駅から続く黄色いレンガの道をオープンモービルがリランド達を載せランニングする様な速度でゆっくりと走る。
キャサリンは時々沿道にある店の名前をリランドに告げるがリランドの頭には入ってこなかった。駅前からソロリティ学園へ到着までの間ずっとリランドは好奇の目にさらされていたからだ。
この時間はリランドにとって針のむしろに座っている様な心が落ち着かない状態にされているのと同じ様に思えた。
(何か居たたまれない。だが、もうすぐ学園に着く。それまでの辛抱だ。)
しかし、学園に着いたから一段落した様に思えるだけであり実際はこれからが本番だと言っても良いだろう。
オープンモービルがソロリティ学園の校舎前に到着するとリランドはひらりとキャサリンを飛び越しオープンカーから飛び降りた。そしてキャサリンが座る側の扉を開けると降車を促すように手を差し伸べる。
「ありがとう、リランド。」
キャサリンは差し出された手を握りゆっくりとそして優雅に降りたつ。そんな彼らの一挙手一投足を校舎の影からじっと見つめる二つの眼があった。
彼女達は“ダリアの君”ことキャサリン・ウィルバーの熱烈なファンでありリランドを厳しく見る代表格でもあった。
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何時もの様に祭壇に飾られたご神体に礼拝を行っていると、“ダリアの君“親衛隊の隊長であるジェシーが同じ志を共にする友人の詩奈からとんでもない事を聞かされる。
「“ダリアの君”が夫婦で来校したですって?」
「ジェシー、正しくは”子供を連れて”それと“来校予定”よ。今、宇宙エレベータを降りている途中のようね。」
「“ダリアの君”が結婚、それに子供も……親衛隊の隊長である私が今まで知らなかった。くっ!一生の不覚っ!」
「ジェシー、これは仕方が無いわ……。舎監に情報を押さえられてしまってはソロリティにいる私たちでは情報を得ることは難しいわ。」
「ぬぅ!邪魔したのは舎監か……。」
悪鬼羅刹を見る様な表情でジェシーは舎監がいる校舎の方角を睨む。だが当の舎監にもその様な情報は入っていない。とんだ逆恨みである。
「それで?どうするの?時間は無いわよ?」
ジェシーは祈りのポーズのまま思案する様に目をつぶる。
(確かに詩奈の言うとおり歓迎の為に人を集める時間は無いわね。でも人がいないならいないなりに出来ることがあるはずよ。例えば、“ダリアの君”の夫の真偽はその最たる物なのでは?)
「この第五代親衛隊隊長であるジェシー・フーに一切妥協はあり得ませんわっ!」
ジェシーはキリリとした表情で詩奈を見ると啖呵を切り勢いよく立ち上がった。
「行きますわよ、詩奈。私たちで真偽を確かめるのです!」
「そ、そうですわね!私たち以外にその大役を担える者などおりません事よ!この詩奈・風城お供させていただきますわよ。」
そして二人は慌てて飛び出していった。それはリランド達三人がソロリティ学園訪れる一時間前の出来事であった。
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校舎側からリランドを見つめる二対の目。それはジェシー・フーと詩奈・風城の目であった。
その目の内一体の目の持ち主、ジェシーがリランドとキャサリンを見て呟く。
「……これは、悪くないのでは?」
彼女らの目には仲睦まじく学園の案内を受ける二人の姿が目に映し出されていた。
「これは良いかもしれませんね詩奈……。」
「はい、その通りです、ジェシー。」
そして彼女らは同時に少し異なる言葉を吐いた。
「やはり、キャサ×リラは王道、これ以外あり得ないわね。」
「やはり、リラ×キャサは鉄板、これ以外あり得ないわね。」
「「……」」
「はぁ? 詩奈さん。何をおっしゃっているのかしら?目が覚めてないのなら洗顔なされば良いのでは?」
「ジェシーさんこそ少々気が緩んでいるのでは無くて?目をこらしてよく観察なさらないといけませんわ。」
二人の間に殺伐とした空気が流れる。
今、リランドとキャサリンを題材とした苛烈な争いが起きようとしていた。
だが、その題材となったリランドとキャサリンは仲睦まじく学園のカリキュラムについて説明を受けるのであった。




