歓迎の式典
惑星モータビアの衛星軌道上にある宇宙港から地上をつなぐ宇宙エレベーターの終点にはリニアを止める為の駅があり、その駅からまっすぐソロリティ学園へ道が延びている。
道の両側には学園生相手の商店が建ち並んでいて何時もそれなりの賑わいを見せているのだが今日は少し様子が違っていた。
宇宙エレベーターがある駅から続く沿道の両側に制服を着た女子学生が一列に並んでいる。そして駅の前では真っ白なオーブンモービルが一台、誰かを待つ様に停車していた。
オープンモービルの前には白い上着に白いスラックス姿の女性が二人立っている。一方の女性は時々時間を確認している様だ。心なしか顔色が青い様に見える。
「ダリアの君の到着時間は?」
「午前八時四十五分到着予定、まだ十五分も時間はあります。落ち着きなさい。」
「落ち着きなさいと言っても落ち着かないわよ。“薔薇の君”から“よろしく”と直々に頼まれたのよ。本来なら自ら出迎えたかったご様子。しかし、ソロリティ星系軍の任務があると言う事で私に託された……絶対に失敗は出来ないわ……。」
「それを言うなら私も“百合の方”に直々に頼まれている。失敗出来ないのは私も同じですよ。」
「“百合の方”……あの方も星刻教会の司教となられたばかりでお忙しいから……。」
「そう言えば前ダリアの方、前百合の君からも同じ様に頼まれていましたわ。」
もう一人の女性に同じ様に別の人からも頼まれていた事実を聞き更に顔色が悪くなる。
「そんなに気にかける必要は無いわ。不適格なら不適格と報告を申し上げれば良くって?」
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リランドは今、宇宙エレベーターのリニア内にいた。もう既に準備は終えておりリニアが到着すれば何時でも地上に降り立つ事が出来る。ただ、このリニア内の乗組員がリランドを値踏みする様な目で見ているのが気にかかるのであった。
「皆様、ただいま当リニアはソロリティ学園前に到着いたしました。ただいまの時刻は午前八時四十五分、気温は摂氏二十八度でございます。安全の為、ベルト着用のサインが消えるまでお座りのまま今しばらくお待ちください。皆様、ご乗車ありがとうございました。皆様の次のご乗車をお待ちしております。」
リニア内のアナウンスが流れるとリニアに軽い振動が伝わる。しばらくすると振動が収まりベルト着用のサインが消えた。リランドは立ち上がると乳母車を押し、降車口の方へ向かう。キャサリンはリランドの右腕に手を添えて一緒に降車するつもりの様だ。
「では行くとしましょうか。懐かしの我が母校へ。リランド、案内は任せてください。」
リニアのホームから動く舗道を使いエントランスへ移動する。
エントランスの先の自動ドアは開いておりその周囲に誰かを待っている様子の女学生達の姿が見えた。
「「「「「「お帰りなさい。ダリアの君。ようこそ、ソロリティ学園へ。」」」」」」
声をそろえて帰郷した者への挨拶をする女学生達を横目にリランドはキャサリンに小声で話しかける。
「キャサリン、在学中何をしたんだ?」
「特には……学生生活を有意義に過ごせる様に色々と活動したのですが……あ、人様に迷惑はかけていませんよ。」
「ああ、その辺りは信頼している。」
女学生達に案内されるままエントランスを出ると目の前にはドアを開けて乗車を促す真っ白なオープンモービルがあった。そして、駅前から学園まで続く沿道に女学生が列をなしているのが見える。
「……難易度の高いミッションだ。」
どうやらキャサリンとリランドは衆人環視の中、ソロリティ学園へ向かわなくてはいけないらしい。




