未探索遺跡
”未探索遺跡”
それはまだ発見されていない異星人の遺跡を示す言葉だ。宇宙冒険に憧れる者なら一度は憧れる夢の舞台とも言える。
そこには手付かずの遺産、異星人の作り上げた品物が眠っていると言われていた。それらの品物は現在の人類では実現できない。所謂オーバーテクノロシーと言われる品物であり、その資産価値は計り知れない。
「これが仕事の内容だ。自分が今のところ言えるのはここまでだな……。」
そう言うとミカエルは船長席から船橋を見渡した。
「どうだ?乗るか?」
「「「乗ろう!」」」
サバーブ、リランド、連宋は異口同音に答えた。その答えを聞いたミカエルはニヤリと笑う。
「ああ、良い返事だ。では詳しい内容を説明しよう。」
ミカエルは船長席備え付けのパネルを操作すると船橋のスクリーンに星系地図を映し出した。
「今現在この船が停泊しているのはここエキドナ星系。ここから銀河外縁部に向かい約三十光年の位置に向かう。」
スクリーンにはエキドナ星系の位置が赤く点で示され、そこから銀河外縁部に向かって赤い線が伸びてゆく。
「……ティフォン星系を掠めるルートか。イラメカ帝国との国境も近いな。他のルートはないのか?」
サバーブは船のルートが気になるようだった。
イラメカ帝国とは太陽系連合と同じく人類の国家なのだが連合に所属していない。その為、連合とは頻繁に小競り合いを起こしており連合の仮想敵国になっている。
そしてティフォン星系はエキドナ星系と同じぐらいの辺境であるが治安が全く行き届いていない。大変物騒な星系なのだ。
「残念ながら無い。この船の航続距離は基本五十光年。燃料タンクを増設したと言っても小型一個だから六十光年というところだ。」
「ギリギリか……余裕がないな。」
「そうでもない。六十光年というのは今の船の重量での話だ。増設した燃料タンクを途中で破棄すれば更に五光年ほど進むことが出来る。」
「おいおい、増設タンクはそんなに安いものじゃないだろう?」
「問題ない。目的の物は増設タンクよりも遥かに……この”流彗星号”よりも遥かに価値は高い。」
「確かに未探索遺跡ならその価値はあるか……。だがティフォン星系か……。」
腕を組み悩むサバーブ。
「サバーブ、ティフォン星系と言うとあれか、一匹見たら百匹はいるという……。」
「そうだ。”宇宙海賊”の大規模な拠点があるとされているところだ。」
”宇宙海賊”
文明が発達したが未だに存在する強盗集団である。これは人類の生存圏が広がった為、取り締まる人員が不足がちなことと、拠点となりうる未探査の宙域が数多くあることから未だに撲滅できていない。
星系宇宙軍の主な対戦相手でもある連中だ。
「一、二隻の海賊船なら俺一人で何とかなるが海賊船団になるとお手上げだ。ティフォン星系ならおそらく海賊船団が相手だろうな。」
「リランド、海賊相手に交渉はできないのか?」
「甘いな、連宋。ティフォン星系の海賊団なら”俺達の目的地をすべて吐かせて宇宙の藻屑ってコース”だ。」
「うへ。連中は脳筋か?」
連合内中域(辺境星系と太陽系の中間ぐらいの位置)に数多くいる海賊団なら連宋の言ったように交渉は可能だろう。
中域の海賊は星系宇宙軍や連合宇宙軍を相手するよりも少額だが楽に稼げて危険が少ない方を選ぶのだ。
しかし、ティフォン星系はエキドナ星系と並ぶ辺境である。
辺境では獲物となる民間船の数は少ない。加えて星系宇宙軍の軍備も宙域よりも装備は悪い。連合宇宙軍もわざわざ辺境まで出てくることは少ない。
したがって辺境の海賊は全てを略奪する方法を選ぶのだ。
「連中は”G”のようにどこでもいるから厄介だ。駆除できるなら駆除したいが……。」
「まぁ、サバーブ。二隻以内なら俺が何とか出来るから海賊はとりあえず横においておこう。で、未探索遺跡だがそこを長期に渡って探索するために食料を満載していると?」
しかしミカエルの答えは異なるものだった。
「いや、探索はそれほどかからない。今までの遺跡の形状から目的のものがある場所はわかっている。目的の物があった場合、食料は帰りに必ず必要になるものだ。」
「???よく判らないが目的のものとはなんだ?」
「ふむ……実際あるかは判らないが先史文明の異星人の遺跡ならまず間違いなくある。だが、それについては少し保留にしてくれ。数があるか不明だからな……。」
「……一体何だ?それは?」
ミカエルは少し目をつぶると答える。
「そうだな。自分の夢を叶えるための物……”可能性を広げるための物”と言っておこうか。」
「可能性か……。」
確かに異星人の遺跡での発見によって得られる報酬であらゆる事が可能になるだろう。
しかし、ミカエルの言う”可能性”はそれらとは違う響きを持っているように思えた。
帝国の名前の変更、実際ある国は不味いので。