カークランド家の遺産
サバーブ達が流彗星号に乗り救難信号の発信源に向かってから半月が過ぎた頃、港湾局に特大の情報が飛び込んできた。
”カークランドの悲劇”
それが後に各メディアを賑わす事件の始まりだった。
あの神の手のロイと言われたロイ・カークランドの息子であるリチャード・カークランドとブレンダ・カークランドは研究所からの帰宅途中、自家用宇宙船が衝突事故に遭い乗組員を含めて全員死亡。
事故自体は無人輸送船との衝突であり、カークランド夫妻の乗る宇宙船が無人輸送船の航路を通った事が原因とされた。
三日後にはカークランド元提督の妻(故人)クローディア夫人の弟であるジーン・アレンは自宅マンションで持病の心臓発作をおこし死亡。
その二日後、カークランド家の顧問弁護士であるロバート・レイトンが泥酔状態で海水浴を行い水死した。
どの事件も当局に捜査されたが今のところ事故死として処理された。
以上がカークランドの悲劇と言われる事件のあらましである。
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カークランドの呟きを聞いたサバーブはその内容の真意を確かめようと口を開いた。
「提督、先ほど息子さんの死を聞いた時に“遅かった”と言われましたが、それは一体どの様な理由なのでしょうか?」
サバーブの質問にリランドや連宋、その場にいる者がカークランドに目を向けた。そのカークランドは周囲を見渡すと軽く頷く。
「君たちはカークランド家……と言うよりもカークランドカンパニーが何で大きくなったのかを知っているかね?」
「カークランドカンパニーは宇宙船のコンソール類、所謂入出力装置を扱っていたと記憶しています。」
「そうだ。耐久性も高くESPにも対応したコンソールとして初めて売り出したのが我が社の製品だった。はじめはそれほど評価が高くなかったのだが、ESPによる入出力が従来の物よりも高速で入出力できるとわかり、我が社の製品がシェア七〇%を占める様になった。」
連宋も小さく頭を上下に動かし同意する。
「あのコンソールのおかげでESP、特にテレパスや電気使いと言われる者の就職が増えたからね。」
「うむ。そしてその次に出したのが脳波入力型。一般人の脳波で入力ができるコンソールだ。」
連宋は聞き慣れない形式だったのか首をかしげた。
「脳波入力型?サバーブは知っているか?」
「五年ほど前に連合軍で採用されたコンソールだ。特殊なインカムを付ける事で入力の補助をしてくれる物だ。……五年前?」
サバーブはひっかかりを感じカークランドの方へ目を向けた。
「当初からその時期に発表する事は決まっていたからね。」
「当初から決まっていた?と言う事は初めから脳波入力型のコンソールはあった?」
「脳波入力型どころか脳波入出力型と言われる物も存在するのだよ。そしてそれが異星人の遺産でありカークランド家の遺産でもある。」
話を聞いていたリランドが疑問を挟む。
「初めから存在する?どう言う事だ?サバーブは判るか?」
「……最初に出たESP対応コンソールが出たのは二十五年前、それより前……そうか!BB症だ!」
「BB症?何だ、それは?」
「リランドや連宋は聞いた事が無いか?古い時代、人類の活動範囲がまだ地球だけだった時の話だ。その当時使われた入力手段が脳に対するインプラント端末や脳自体に直接信号を送る事の出来るVR端末が使われていたのは聞いた事が無いか?」
「おいおい、何時の時代の話だよ。自殺行為だぞ、それは。」
リランドは少し呆れた様な顔をした。
「ああ、リランドの言うとおりインプラント端末やVR端末は今の時代それらの端末は法律的にも禁止されている。その禁止の原因になったのがBB症、ブレイン・バーン症、文字通り脳が焼けるのだ。」
インプラント端末やVR端末は地球上だけで生活する分は問題なく機能した。しかし、人類の活動範囲が宇宙や他の惑星に移った時、問題が数多く発生した。その一つがBB症である。
宇宙空間は空気が無いだけで何も無い訳では無い。宇宙空間には強弱様々な電磁波が飛び交っている。その様な空間で地球上の精密機器を使うには特別なシールドが必要になる。
怠った者、知らなかった者が何の対策も無いまま宇宙空間に出てしまい精密機器が電磁波の影響を受け破損、時には爆発を起こした。
インプラント端末やVR端末も精密機器、特に脳に直接影響を与える精密機器である。機器の破損や爆発は脳に深刻なダメージを与えた。脳を損傷させない為にはシールドも特別厳重にする必要があり、費用対効果を全く見いだす事は出来なかった。
その為インプラント端末やVR端末は宇宙での活動は元よりあらゆる場所での使用が禁止される様になった。
「一旦定着した世間の評価は変えにくい。それに最初から脳波対応だと入力だけとは言え法律に触れる可能性があった。だから最初はESP対応をうたい法律の改正と世間の認知を促した。そう言う事ですね?」
サバーブがカークランドの方を見るとカークランドは黙って頷いた。
「だがサバーブ、それが“遅かった”と言った理由になるのか?」
「ああ、それだけの技術をカークランド家が所有していると言う事だ。そしてその技術の所有者であるカークランド提督が行方不明になって二十年、死亡認定されるのが今年であるという事だ。」




