流彗星号
雇い主(候補)であるミカエルの外見上の年齢は八十歳を超えているだろう。
抗老化防止薬があるので実際の年齢はわからない。しかし声の聞いた感じからそれほど差はない様にサバーブには思えた。
ミカエルはサバーブを案内してきたレイチェルに話しかける。
「待っている間にそれぞれの経歴は見せてもらったよ。パイロット、ナビゲーター、戦闘員、全て期待以上の人員だよ。」
「ご希望に添えて何よりです。では契約は?」
「そちら側に問題なければ即採用、契約したい。」
レイチェルとミカエルはサバーブたちの方へ顔を向けた。
「こちらの条件としては、仕事の内容と目的。それと船についてだな。」
サバーブは現時点において不明な事柄を尋ねた。
「……内容か。それについてはここでは詳しくはなせんな。船を見るついでにその中で話そう。ネエサン、採用不採用の報告は端末でもよいのか?」
「はい。端末からの報告で結構です。」
「よし決まりだ。それならわしの船、”流彗星号”へ行こうか。」
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ミカエルの船、”流彗星号”はレルネー1の宇宙船用ドックの一番端にあった。
「ブラジオン型か……。」
サバーブが呟くブラジオン型は目をつけていた船と同じ型だ。
ブラジオン型は中型宇宙船の中でも最大の積載量を誇る。その反面、船速は遅く装備されている武器も簡単なものしか無い。その為、中古の価格も一番安い。
本来の使い方は船団を組んで戦闘艦に守られながら長距離を航行するための船で単独で使うのは持ち金の少ない貿易商人ぐらいだ。
それに”流彗星号”が停泊しているドックは一番端で管制室から最も離れており出向や入港の便が悪い位置だ。その為、このドックはレルネー1でも最安値である。
一番安いからと言って辺境でもこのドックを借りる人はあまりいない。何故なら辺境で宇宙船を持っているのは商人か鉱山主、一部の金持ち連中だからだ。
その様な人間は利便性の良い位置にドックを借りるし、それだけの財力があるのだ。
したがって、この位置のドックを借りるのはほかが全く空いていない時か船主にお金があまり無い時である。
現在、レルネー1のドックは空きがある。という事はこの雇い主ミカエルはあまりお金がないと推測できる。
「別に金がないからここに停泊してるんじゃないぞ。」
停泊している”流彗星号”を見ながら何やら相談をしていたサバーブたちにミカエルは声をかけた。
「ま、その理由も詳しい話も中にはいってからだ。さぁ、乗った乗った。見た目はこんなのだが中は快適だぞ。」
「見た目ね……彗星とか流星とかいうよりも棍棒がぴったりな外見だな。どうした?連宋?」
船を通目に見ていたリランドが首を傾げている連宋に声を掛けた。何か気になることがある様だ。
「いや、何。この宇宙船の認識番号、“TKOG-CTRY-DAG7”と言うのはどこかで見たことが……。」
「TKO?格闘技の用語みたいだな。そう言えば俺もその番号には記憶がある。」
「あれだ、私が言っていた安値の船。」
「「ああ、あれか!」」
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”流彗星号”の中は意外なほどきれいに掃除がなされ整理整頓されていた。この手の中古の船なら前の持ち主によって無残なほど汚れている場合があるが”流彗星号”は違うようだ。
「どうだ?結構きれいだろう。まぁ、船員用の区画とかは別の船から持ってきているからな。」
「別の船?そうか、ブラジオン型はコアブロック方式だからか。」
驚く連宋にリランドが尋ねる。
「何だ知っているのか連宋?」
「ブラジオン型はエンジン部を含む船体部とカーゴベイそれぞれがブロックになっていて簡単に取り替えることが出来る船なんだ。だからカーゴベイを客室に取り替えて格安客船にすることも可能だよ。取り替えるだけで済むので工事期間は一週間もかからないかな。」
「ああ、そのとおりだ。自分の計画に必要だったから色々取り替えている。この船室も計画の為の物だ。他には艦船用CPUやエンジン部を取り替えカーゴベイも多少改造している。」
どうやら”流彗星号”は基本部分以外をすべて改造しているようだ。
「船員用の船室は全部で六つ。それぞれの部屋に自動調理器とバス・トイレを完備している。」
「おいおい、どこの豪華客船だよ。」
自動調理器は比較的手に入りやすい物だが各部屋に取付けているのはあまりない。その上、バス・トイレがあるとなれば豪華客船としか言えない。
「カーゴベイには食料を大量に満載しているから強化防護服は三着ほどしか置けないぞ。」
「強化防護服はどのタイプを想定している?重火器用は?」
強化防護服のタイプによっての大きさが異なる。リランドの持つ強化防護服は重火器用、装備である荷電粒子砲を加えるとかなり場所を取る。
リランドにとっては聞いておきたいことのひとつなのだろう。
「一般用と言われるやつだな。重火器用なら一台だな。あとは……そうだな、話すなら船の中心部。船橋が良いだろう。こっちだ。」
質問に答えるとミカエルは奥に進んでゆく。リランドはサバーブたちと顔を見合わせると頷きミカエルの後を追った。
”流彗星号”の通路はあまり改造していないのかあちらこちらに汚れが目立つ。といってもブラジオン型の中古船なら相応の汚れだ。
幸いなことに移動用のハンドレールは取り替えたばかりらしくスムーズに動く。
「とりあえず今の所、船自体に問題はなさそうだ。後は船橋の様子と私たちを雇う目的だね。」
と小声で話すサバーブの言葉にリランドと連宋は黙って頷く。
ハンドレールの終わりにある扉が軽快に開くとそこはもう船橋だ。まだビニールカバーのついた座席が二つあるのが見える。
「船の移動で操縦席のカバーは取り外しているが他の席はそのままだ。それぞれ気に入った席に座ってくれ。」
ミカエルはそう言うと船橋の中心にある座席、船長席に腰を下ろした。ミカエルは船長席の上からサバーブやリランド、連宋を見ながら楽しそうに笑っていた。
「なかなか壮観だな。それぞれに席に人員が配置されているというのは……。では君たちを雇う目的。仕事の内容について話そうじゃないか。」
ゴクリとつばを飲み込むサバーブ達。
「自分の目的は”未探索遺跡”の調査と発掘だ。」
そう言うとミカエルは楽しそうに笑った。
ブラジオン型宇宙船
四基のプラズマジェット推進機と一基のジャンプドライブを持つ恒星間宇宙船。
船速は遅い部類だが汎用性の高さから数多く作られた船である。
八角形の船体部の後にカーゴベイと接続する為の細長い通路部を設けている。この通路部にドーナツ状になっているカーゴベイを取り付けるのである。
その姿が棍棒に似ている為、この名が付いた。
カーゴベイは汎用型で船室や予備タンク、武装などあらゆるユニットを接続することが出来る。
星系間航行に必要なフィールド発生装置は並であるが全面に展開させることが可能。
フィールドの部分的な展開も可能で集中させて展開した場合、高出力の砲撃を一時的に凌ぐことが可能である。