こっそり帰還(希望は叶うとは限らない。)
得意げ尚顔で仁王立ちになるビィを横目にサバーブは次の問題点に話を移した。
「修理に関してはなんとかなりそうだ。ではもう次の問題、それは流彗星号に使われている技術の事だ。」
そう言うとサバーブは流彗星号の船橋を一瞥する。その様子を見たリランドと連宋も同意するかの様に頷いた。
「確かに流彗星号の事をある程度話す必要があるな。」
「問題は何処まで話すかだね。わしが思うに提督はある程度は気がついている様に思う。」
腕を組むとサバーブは操縦席の肘掛けに腰を下ろす。
「私も連宋の考察と同じ考えだ。提督は通常では手に入らない技術が使われている事は気がついていると思う。提督は元軍医だったはず、私たちが救出した時でも死を覚悟していた様に思えた。」
サバーブの言葉に連宋は救出時のカークランド元提督を思い出していた。
「あの時、提督はわしたちが近づこうとしたのを押しとどめたな……罹っていた病気が治りにくい物と考えていたのか?」
「そうだ。どちらかと言うと”治らない病”と考えていたのではないかと推察出来る。その治らない病を治療ポッドだけで治せると思うか?どう思うリランド?」
「医療技術が進歩した……と考えたのかな?提督が行方不明になったのは何年前だ?」
「二十年前かな?だが風土病にまで対応した医療ポッドは現時点でも存在しない。しかし提督はそれに関しては全く何も言われなかった。軍医なのに……だ。」
「「あ……。」」
「それだけでもこの船の特異性を提督には理解出来ると思う。」
流彗星号に備え付けている医療ポッドは現時点で最先端の医療ポッドの先を行く物だ。長い間、遭難していたとは言え軍医でもある提督がその差に気つかないとは思えない。
「それでもさすがにこの存在は……。」
そう言うとサバーブはビィの方を一瞥した。
「?」
「……提督はある程度は気がついているとは言え、まさか流彗星号に乳児が乗っているとは思わないだろう。」
リランドや連宋もビィを見て納得した表情をして大きく頷いていた。
ビィを見て頷く三人を前にビィは胸を張って答える。
「当然ですね。この様なプリティな乳児は他に居ませんわ。」
サバーブはそんなビィを見て頭を抱える。
「ともかく、ビィを含めてある程度……そうだな、流彗星号が”異星人の技術で改造された船”と言う事は言わなければならないだろう。ただ流彗星号の改造場所であるダイソンスフィアは秘密だな。」
リランドも連宋も頷いて同意した。
「では次だ。提督の帰還を秘密にするという事だ。この船の中にいるのなら帰還が発覚する事は無いだろう。だが流彗星号の今の状態だと港湾局の役人が必ずやってくる。」
そこまで言うとサバーブはリランドの方を見た。
「……判った。港湾は俺の古巣だ。」
リランドは片手を胸に当てて頷く。
「俺に任せろ。」
―――――――――――――――
流彗星号がレルネー1に帰港するやいなや港湾局の連中がやってきた。
四基の推進器の内三基が不能になり船体の半面の至る所に破損が見られるのである。その様な船を何もなしに通す訳にはいかないのである。
「こちらレルネー1管制室。流彗星号、貴船は大きく損害を受けている様だが何かあったのか?」
「こちら流彗星号、本船は暗黒宙域通過中に損害を受けた。原因は不明だ。被害を受けた場所の航路データーを送る。」
「……航路データーを確認した。流彗星号、誠に申し訳ないが港湾局による事情聴取にご協力願いたい。」
「了解した。今から向かう。」
通信を切ったリランドはサバーブや連宋に手を上げて合図をすると港湾局の事務所へ向かう。宇宙港には港湾局の職員が待機する事務所が併設されている。リランドはその事務所へ向かった。
(よし!ここさえ乗り越えれば後はなんとかなる。)
リランドは気合いを入れると事務所のドアを開けた。
「リランド准将。何があったか説明していただけますよね?」
事務所のドアの向こうには女性士官、キャサリン・ウィルバー少尉が顔を少し引きつらせた様な笑い顔で立っていた。




