軌道上の戦い その3
ブリックは連宋を取り囲もうとする手下の姿を見て館長席の肘掛けに手を叩きつけた。
「あいつらは馬鹿か!槍使い相手に何をやっている!」
そんなブリックの様子を見た手下の一人が首をかしげる。
「船長、槍使いを包囲すると何か不味い事でもあるのですか?」
「不味い事でも……だと?」
ブリックは疑問を口に出した手下を睨み付ける。
「“でも”じゃ無い!不味い事しか無いのだ!見ろ!」
船橋のモニターには三機の強化防護服が一機の強化防護服を取り囲み襲いかかろうとしている姿が映っていた。
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バスタードソードを構えた三機の強化防護服は連宋の周囲を回りながらゆっくりと間合いを詰めて行く。
「焦るなよ、ティピカ、パーカス……同時だ、三機同時で攻撃すれば奴もよける事は出来ない!行くぞ!」
「「判ったぜ、リベリカの兄貴!」」
三機の強化防護服は腰だめにバスタードソードを構えると同時にスラスターを吹かせた。
「三機同時ならば躱せまい!一人を突いている間に他の二人がお前を刺し殺す!死ねえええええ!」
連宋は海賊に囲まれた状況で少し呆れた顔をしていた。彼が持つ武器は槍である。槍という武器は突くだけの武器では無い。払う事も打つ事も可能な武器なのだ。
そしてそれらの攻撃は長いリーチの分、威力は高まる。
連宋は迫る三機の強化防護服に合わせ槍を大きく振り払い三機の強化防護服の腕を大きく切り飛ばした。
海賊たちの強化防護服は切り飛ばされた腕から充填剤が勢いよく吹き出し彼らの突撃を妨げる。
「少し浅かったか……わしも未だ未だだな。」
連宋はそう呟くと薙ぎ払った槍を構え直し目の前の一機に上から槍の穂を叩きつけた。
連宋の操る強化防護服は叩きつけた反動を利用し上へ大きく移動する。
頭が大きくひしゃげた強化防護服を見たリベリカが吠えた。
「カメラが!!野郎!パーカスを踏み台代わりにしやがって!」
リベリカはまだ戦おうと片手でバスタードソードを構える。
だが、腕を切り下ろされたティピカの強化防護服は腕の部分を押さえその場で来るクルクルと回っていて、頭部カメラが壊れたパーカスの強化防護服は微動すらしない。
「全滅だと……五機の強化防護服がたった一機の強化防護服に……。」
リベリカが見上げた視線の先に十文字槍を構えた強化防護服の姿が映る。リベリカにとってその強化防護服は悪魔の様に映った。
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戦闘をモニター越しに見ていたブリックはそう命令すると自分の座席に深く腰を下ろし大きくため息を吐いた。
「畜生!今日は厄日なのか、カモと思ったら……あれは軍の強化防護服だな。」
ブリックの言葉に手下の一人が尋ねる。
「軍のですか?軍が関与しているのですか?」
「ああ、間違いないだろう。あの強化防護服、基本性能は元よりステルスの性能といい軍の強化防護服としか思えん。おそらくあの船も軍の実験船だろう。だとすればアジトの位置が軍にバレた可能性がある。」
ブリックは手を口に当てしばらく考え込む。
「……撤収だ!リベリカ達に撤収を伝えろ!軍にバレたのならここのアジトも当分は使えない。別の星系に行くしか無いな……。何処へ行けば……。」
大きく傷ついたディアボロスやこれからの事を考えると頭を抱えるブリックだった。
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ゆっくりと海賊達が後退して行くのを確認すると連宋はスラスターを吹かせ流彗星号に戻る。流彗星号では着陸艇が収納されカークランドは治療用のポッドに収納され治療を開始していた。
どうやら一命は取り留めた様だ。
連宋が船橋へ移動するとサバーブがねぎらいの声をかける。
「連宋、お疲れ!おかげで助かったよ。」
「あ、いや、わしはあまり疲れていないのだが……。」
「疲れてない?にしては疲れた様な顔だが?」
「……素人相手に無双するというのはあまり気分の良い物ではなくてね。」
そう言うと連宋は本当に疲れた様な顔で笑う。
「そうか……疲れているところを悪いのだがハイパワージャンプの準備をしてくれ。」
「了解。」
それから程なく流彗星号はエキドナ星系へのハイパワージャンプを行った。




