軌道上の戦い その2
この時代、宇宙での戦闘では遠距離では艦隊戦、近距離では駆逐艦などの小型艇が主流だ。
しかし格闘戦の場合、機動性が優先され小型の人型兵器、強化防護服が使用される。
惑星上において格闘戦を行う場合、人型よりも翼のある航空機が機動性にも優れ有効であった。
しかし、宇宙における戦闘では立場が逆転する。
これは航空機の機動性が低い訳では無い。人型には手足がある。その手足を使った方が効率よく姿勢制御を行える為だ。その為、宇宙の戦闘では人型が有利なのだ。
手足は飾りでは無いのである。
海賊船ディアボロスから迎撃に出た五機の強化防護服は手には刃渡り100cmほどのバスタードソードと言われる剣と片手用の荷電粒子機関銃を装備していた。
「いたぜ!奴だ!援護しろ!」
その中一人が強化防護服のスラスターを吹かせ連宋の乗る強化防護服に向かっていった。連宋は急速接近する海賊の強化防護服に慌てる事も無く十文字槍を繰り出す。
「けっ!しょせん槍なんて遠くから突くだけの臆病者の武器だ!こうやって突いてきた槍を躱し近づけば命を捕るのはたやすいぜ!!」
接近する海賊の強化防護服に対して連宋は少し下方向にスラスターを吹かせ斜め上に槍を突き出した。海賊の強化防護服は連宋が大きく突き出した槍を躱しスラスターを吹かせると更に連宋に接近する。
「取ったっ!!」
バスタードソードを大きく振りかぶり連宋の乗る強化防護服の頭をめがけて叩き込もうとする。
次の瞬間、周囲に鮮血が飛び散り恒星リピーアの光に晒された鮮血が瞬く間に蒸発し凝華する。赤く小さな氷の粒が辺り一面に広がった。
「うぎゃぁあああああ!俺の腕が!!」
連宋は突きをやってくる海賊が躱しやすい様に十文字槍の両鎌を縦にして攻撃した。そして海賊が頭を狙ってバスタードソードを振りかぶる時を狙って槍を引いただけである。
ただし両鎌を横にして突き出した格好のまま急速後退しただけなのだ。
切り取られた強化防護服の腕から充填剤が吹き出た。
宇宙空間で空気が漏れる事は死に直結する。その為、エア漏れした部分は即座に破損部分を埋める為の充填剤が少し多めに放出されるのだ。
強化防護服から余分に漏れ出た充填剤は周囲の視認を悪くしていた。
「野郎!アラビカの腕を!」
後ろから追随していた海賊の二人が慌てて荷電粒子機関銃を連宋に向ける。
その動きを予測していたのか連宋は腕を切り落とした海賊の強化防護服に体当たりをするとやってくる海賊たちの方へ押し出した。
体当たりされた海賊の強化防護服はいびつな回転をしながら余分に吹き出した充填剤を周囲にまき散らす。
その強化防護服に海賊連中の一機が素早く近づいてきた。
「アラビカ、無事か?」
「まて!ロブスタ!奴は何処だ?」
「何処って、この先に……いねえ?」
次の瞬間、ロブスタはアラビカごと刺し貫かれた。
「何だと!アラビカのスーツの影に……!ええぃ!全員撃て!撃て!」
海賊連中の撃ったビームは宇宙ゴミと化した充填剤やロブスタとアラビカの強化防護服に阻まれ連宋に届かなかった。
「くそっ!狙いがさだまらねぇ!」
荷電粒子機関銃をバスタードソードに持ち替える仲間の海賊連中に命令した。
「相手は突くしか出来ない槍使いだ!囲んでしまえばどうという事は無い!掛かれっ!」
バスタードソードを手に持った三機の強化防護服は連宋を囲むと一斉に襲いかかった。
その様子をブリックはディアボロスの艦橋のモニター越しに見ていた。




