軌道上の戦い その1
連宋の強化防護服は着陸艇の上に乗ると言うよりもへばりついていた。
急速上昇する着陸艇の斥力フィールドが圧縮断熱で白く輝くがその内側、連宋がへばりついている場所の温度上昇は極わずかだ。そのわずかな温度上昇も着陸艇が上昇するにつれて小さくなって行く。
そんな連宋にコクピットのリランドからモニター越しに声がかかる。
「宇宙サーフィンの具合はどうだ?」
「船倉の気密を守る為とはいえ、ちょっときついね。」
着陸艇の船倉は閉じている間は船倉内の空気が外に漏れない様に気密が保たれている。その為、気密性に問題があるかもしれない脱出カプセルを格納する事が出来る。
しかし、強化防護服を出撃させる為に船倉を開くと中の空気が外に漏れる事になり脱出カプセルの空気が抜ける事になりかねない。それは脱出カプセルの中で安静にしているロイ・カークランドの命を奪う事になるだろう。
連宋は着陸艇の外に出ておく事で船倉内の空気が漏れる事を回避したのだ。
「連宋、着陸艇の斥力フィールドを解除する。後は手はず通りに頼むぞ。」
「わしに任せておけ。わしの強化防護服はこの様な場面が一番得意だからな。」
連宋は強化防護服の右手を振り上げ合図を送ると斥力フィールドが解除された着陸艇から発進した。
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海賊船ディアボロスの艦橋では船長であるブリックが予想外の抵抗に鬱憤がたまっていた。いつ暴発してもおかしくない姿を見た手下たちは逆鱗に触れる事の無い様に皆一様に押し黙っている。
「流石は実験船というところか……ディアボロスの砲撃にも長い時間耐えていやがる。だが何時になったらあの船の斥力フィールドは飽和するんだ?……あの船はブラジオン型に偽装しているが中身はとんでもない代物の様だな。」
ブリックは忌々しげに流彗星号を睨み付ける。その背中に手下からの報告が飛ぶ。
「クラピアから急速上昇する機影1機!着陸艇のようです!」
「何だと!?そうかあの船の奴ら下に降りた奴を待っていたな……。着陸艇を狙えるか?」
「駄目です。船の影に入られました。こちらから狙う事は出来ません。」
「……着陸艇を受け入れる時に隙が出来るはずだ。全砲門開け!実験船に向かって一斉射撃だ!」
先ほどの砲撃とは打って変わって豪雨の様な砲撃が流彗星号に降りかかった。そのエネルギーの奔流とも言える攻撃の前に流彗星号の斥力フィールドは太陽の様に白く輝く。
だがそれが海賊船ディアボロスに接近する者にとって有利な目くらましとなる。
「ぐはははははは!撃て!撃て!撃て!撃て!撃て!撃て!撃て!撃て!う……。」
積もり積もった鬱憤を晴らすかの様に砲撃を命じるブリックの足下が大きく揺れ片膝をつく。
ディアボロスの艦橋に警報が鳴り響く。
「一番砲塔沈黙!」
手下の一人は現状を確認する為に砲塔付近の映像をモニターに出した。
「……これは!強化防護服です!強化防護服が砲塔群にとりついています!メインスクリーンに出します!」
メインスクリーンに長柄武器を持ち砲塔群を攻撃する2mほどの人型、強化防護服の姿が映し出された。
「強化防護服だと!管制は何をしていた!!」
「そ、それがレーダーには何も……。」
「ステルスか!洒落臭い!こちらも強化防護服を出せ!このディアボロスに単機で乗り込む舐めた野郎を撃墜しろ!」
「了解!」
程なく海賊船ディアボロスから五機の強化防護服が出撃していった。




