難破船
ぽっかりと空いた大穴はそのままスルスルと伸び着陸艇ほどの大きさがある鳥の様な生物を飲み込んだ。
飲み込んだのは深い青色の皮膚を持つ巨大生物の様だ。口を広げただけで着陸艇の倍はある様に見える。この生物はどうやら海中で潜んでいて目の前を通る生物を飲み込む待ち伏せ型の狩りをする様だ。
その狩りの様子を目撃したリランドが口笛を吹く。
「あの大きさを一口か……サバーブ、この辺りの海域には迂闊に下降できないぞ。」
リランドの言うとおりあの大きさの生物を一飲みに出来る生物が何処に潜んでいるか判らない。うっかりあの生物が潜む海面近くを飛行した場合、着陸艇でも一飲みにされてしまうだろう。
「連宋、目標の金属物まで後何Kmだ?」
「3000Kmと言ったところだね。着陸艇の今のスピードなら約一時間と言ったところだね。」
「判った、目的位置までのナビを頼む。」
「了解」
サバーブは着陸艇の高度1万mを維持し目的地へ向かった。
―――――――――――――――
周回軌道上から探知した金属物があるのは惑星クラピアでも二番目に大きい島である。
赤道に近い島だけあり一年を通して気温が高く平均気温は25度、まさに常夏の島といえる島であった。
島の浅瀬から山頂に至るまで様々な木が生い茂り森林を形成している。森林を形成しているのは高さが100mを超す巨木だ。
海岸線から少し離れた位置に何かの塊をいち早くリランドが金属の塊の様な物を見つけた。直線上の空き地が続いた先にある巨木の根元に金属の塊が埋もれているかの様に見える。
「サバーブ、海岸線から約500m、おそらくあれが今回の目的の物だろう。連宋!」
「通信に応答はないよ。エネルギーが完全に切れているみたいだ。」
「よし、ゆっくりと降下してみる。着陸艇をSTOL……いや、VTOLモードに切り替える。」
サバーブがシフトレバーの様な物を動かすと着陸艇のプラズマジェットエンジンが主翼ごと垂直にゆっくりと傾く。サバーブはリランドの言葉を聞き着陸艇をゆっくりと金属の塊の様な物に近づけて行いった。
徐々に高度を下げる着陸艇のプラズマジェットが周囲の巨木の枝を揺らすと枝から多くの生物が飛び出してきた。巨木自体がこれらの生物の住処になっている様だ。
「サバーブ、あれはやはり……。」
「ああ、おそらく宇宙船だ。これが救難信号の発信元だろう。」
「どうやら船の近くに着陸出来そうだな。低木一本も生えていない理想的な着陸地点だ。」
サバーブはそう言うと着陸艇を器用に操りながら宇宙船の近くの空き地へ着陸させた。
―――――――――――――――
着陸を終えたサバーブは宇宙服のままクラピアの大地を踏みしめた。
「酸素濃度34.1%、有毒大気検出されず……。一応宇宙服を脱いでも大丈夫だが万が一の事もある。」
サバーブの言葉にリランドは大きく頷く。
「そうだな。強化防護服はどうする?」
「強化防護服か……連宋、周囲に大型生物の反応は?」
「赤外線による探査には大型生物は発見できない。着陸艇の騒音で大部分が逃げたみたいだ。」
「そうか、なら強化防護服は必要ないな。」
サバーブたちの目の前には目的の場所、原形をとどめていない宇宙船(難破船と言うべきだろうか?)があった。
所々丸く抉られた様な痕がある宇宙船の前には脱出用のポッドが置かれこれを住居としている様だ。
上空からは判らなかったが、着陸地点は地面自体を石で補強された上、周囲の下草や低木が丁寧に刈られていた。
連宋は切り取られた低木の断面に手を当てる。
「……少し前に切り取られた様だね。切断面が乾きつつある。」
「と、言う事は救難信号の主は生きている?」
連宋は質問をしてきたリランドに対して頷き立ち上がろうとした。その時、空き地にサバーブたち三人の物ではない声が広がる。
「諸君、よく来た。私の名前は”ロイ・カークランド”……。」
救難信号の主が名前を名乗った途端、サバーブたちは顔を見合わせた。何故ならその名前はサバーブたちの年代にとって忘れられない名前だったからだ。
「ゆっくりと入ってきたまえ。宇宙服は着けたままで結構。何があるか判らないからな。」
サバーブたちは声の主、”ロイ・カークランド”に会うべく住居らしい物に足を踏み入れた。




