スタートレーダー協会
スタートレーダー協会。
太陽系連合内において最大の人材斡旋組織である。
登録者の中にはサバーブ達のような元パイロット、元海兵隊、元情報部から商人、採鉱屋、探索者など様々な職種の人々、それこそ老若男女が登録している。
登録者数もさることながらその人材の種類も連合一といってもよいだろう。
レルネー1において協会が入っている建物は居住区内でもドッキングポートがある港から近い場所にある。建物の一階部分は受付になっていて職を求める者や人材を求める者で常に混雑している。
サバーブ達三人がその建物に入るとその場に居た者たちが一斉にサバーブ達三人の方へ顔を向けた。
三人の中でもリランドの方がよく見られている様に思えた。
それもそのはずである。建物が港に近いということは港湾局事務所の近くという事。当然、港湾局に勤め色々な意味でも有名だったリランドを知らない職員はいない。職を求めて訪れる者の中にはリランドと肉体言語で会話した者もおり彼らからは恐れや恨み、尊敬の目が向けられていた。
その中の一人、リランドの姿を見つけたのかプラチナブロンドで灰色のスーツ姿の男が声を掛けてきた。
胸にスタートレーダー協会のバッチと”主任”と書かれた名札を付けている事から協会の職員なのだろう。
「リランドさん今日は視察でしょうか?」
「おいおいタルボット、俺は港湾局を退職した身だぞ。視察の訳ないだろう。面接だよ、面接。再就職の。」
「えぇ!そうなのですか!前から言っている様にトレーダー協会での椅子を用意しましたのに……。」
タルボット主任はリランドに前から再就職の声をかけていたようだ。
「冗談、また机に向かうのはコリゴリだよ。」
「いやぁ、リランドさんなら実戦部隊ですよ。」
「実戦部隊?」
リランドは少し身を乗り出してタルボットに尋ねた。
「実戦部隊の仕事は主に座礁した宇宙船の回収や牽引です。中には海賊に占拠された宇宙船もあるので……。」
確かにリランドにとってはその辺の対処はお手の物だろう。
「でもなぁ、それだと自由に宇宙船を動かせるわけじゃないだろ?」
「そこは大丈夫です。仕事で使っていない時は自由に使えますので。」
「仕事で使っていない場合は自由に……ん、ちょっと待て。仕事に使わないのは連続で何日ぐらいあるんだ?」
リランドの問いかけにタルボットは横を向き口笛を吹いて誤魔化した。
「あ、こいつ……やれやれだな。まぁいい、ところでこの募集の面接は上の階か?」
リランドは自分の端末を操作し、募集の情報をタルボットに見せた。
「ああ、三人まとめての募集ですね。少々お待ち下さい、」
そう答えると職員の一人に声をかけた。職員は素早く手元の端末を確認するとリランドたちに話しかけてきた。体のラインを強調するようなスーツを着こなした女性だ。栗色の髪を短く切りそろえハーフリムメガネで知的な印象を与えている。
「面接のための部屋はここの四階、417号室になります。相手の方は既にお待ちになっています。太陽系出身で身分の確かな人ですよ。では、私、レイチェルがご案内します。」
軽やかに歩くレイチェルの後ろにいい年をした大の男三人がついて行く。
「これは傍から見るとおっさん三人が美人に言い寄っている様に見えないわけではないな。」
「ふふふふ。サバーブ様なら引く手あまたでしょう。」
「いやいや、仕事柄なかなか女性との接点が少なくてね……どうですか?この後、仕事を終えたら一杯?」
「それは光栄なことですわね。でも今日は予定がありまして、また機会があればよろしくお願いします。」
「やれやれ、振られてしまったな。」
手を広げて残念がるサバーブにリランドの容赦のない空手チョップが入る。
「面接前にナンパしてるんじゃねぇ。」
「イテテテ、まいったなぁ。美人を誘うのは常識じゃないか。」
「時と場所を考えろ。」
「いやいやいや、美人相手は時と場所を選んではいけないだろう。」
サバーブとリランドがぐだぐだと繰り広げる“どつき漫才”を横目にレイチェルはエレベーターへ乗り込んだ。
「それでは上に参ります。お乗りになりますか?」
「はい、はい、わかりました。わしは先にゆくぞ。」
連宋が乗り込むとエレベーターの扉がスッと閉まってゆく。
「「おお、待て、待て。」」
慌てる二人の目の前で扉が閉まった。
「「あ、」」
一言発し項垂れるサバーブとリランド。その目の前で再び扉が開いてゆく。
「冗談です。」
真顔でそう告げるレイチェルの隣で連宋が声を殺して笑っている。
サバーブとリランドの二人は罰の悪そうな顔をしてレイチェルに謝罪した。
「すまない。迷惑をかけた。」
「悪い、すまなかった。」
「ではお乗りください。……上に参ります。」
417号室でサバーブたちを出迎えたのは年老いた白髪の黒人だった。その老人はサバーブたちに思わず聞き惚れるような渋い声を発した。
「よろしく。自分の名はミカエル・J・ソーン。君たちの雇い主だ。」