万事休す?
私の名前はトルダ・カラハン。プロキシマ出身であり、太陽系連合内において最大の人材斡旋組織であるスタートレーダー協会エキドナ星系支部の副部長を務めている。
何事もそつなくこなせる優秀な私は本来この様な場所にいる事自体間違っているのだが、私の能力を妬んだ者たちによってこの様な辺境に送られてしまった。
だが問題は無い。
優秀な私はここでも頭角を現す。なんと辺境であるエキドナ支部の収入を倍増させたのだ。
確かに、多少非合法な連中に協力した事はある。しかし、連中を利用した事や私が副次収入を得た事は全体から見えれば些細な事だ。
現に私掠船免状という物があるではないか。私がやっている事はそれと似た様な物である。
そしてまた支部の収入を倍増、いや数十倍にする案件が飛び込んできた。
星系軍上がりの連中が完全防止薬を発見したというのだ。
その様な重大な案件を下級職員に任せるわけにはいかない。私はその担当になった職員からその案件を取り上げる事にした。
その職員、レイチェルは多少顔や体つきは良いかもしれないが、所詮エキドナ出身者だ。私の様な優秀な人材とは考えられない。
しかし別の問題もある。発見した連中の中にあのリランドがいるのだ。私の計画をしばしば頓挫させ縮小させた忌々しい港湾局の奴だ。
どうやら港湾局を辞めてからトレーダーに転職した様だ。奴がいるなら事は慎重に運ばなければならない。当面の赤字覚悟で連中に有利な条件を出すしか無いだろう。
なに、問題は無い。
完全防止薬は赤字を吹き飛ばすぐらいの利益を必ずもたらす。
その為にも発見した連中から発見場所の情報を聞き出さなくてはならない。
私は完全防止薬を発見した連中に面会し話を進めようとした。
その交渉中、リランドは私をずっと睨んでいたが優秀な私はその様な事でボロは出さない。提案した条件も全く問題の無い範疇に納めている。
しかし、交渉は決裂した。連中は後日返事をすると言っていたが、必ず断るだろう。
やはり連中が発見した場所というのが大がかりな遺跡なのだろう。連中の中にリランドがいる事も関係しているに違いない。
優秀な私はいつもの連中に手配を行う。連中は相手の中にリランドがいる事を聞き今までの復讐が出来ると大変な喜びようだった。
果報は寝て待て
あとは連中に任せれば事はうまく運んでくれる。
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エキドナ星系外周部にジャンプアウトした流彗星号はレルネー1に通信を入れる。
星系外周部から通信なしで星系内に侵入する船は他国の軍船や海賊船と見なされ星系防衛の観点から撃沈されても不思議ではない。その為、星系外周部に到達した時点で入港する港に通信を入れる決まりになっていた。
港との通信は量子通信で行われる。量子通信はジャンプを行うと通信することは出来ないがエキドナ星系外周部に置かれた量子通信用の設備を経由することでその恩恵を受け、通信のラグを減らす事が出来る。
流彗星号の通信担当は連宋だが今回は港湾局とのやり取りが予想される為、リランドが通信を受け持っていた。
リランドが見るモニターにレルネー1の通信係の姿が浮かび上がる。
「こちら流彗星号、乗組員のリランドだ。レルネー1応答願います。」
「こちらレルネー1、流彗星号、帰還予定は一週間後だったはずですが何かトラブルでしょうか?」
出航した流彗星号が次の日に戻ると言うことは途中で何かトラブルがあったから戻ってきたと思われているのだ。(実際トラブルに会ったことは間違いではない。)
「ああ、その通りだ。少し厄介な問題があって帰還した。今、レルネー1の港には出航予定の船はあるか?」
「少々お待ちください……一時間後にリーベル三世号とヘルメス号が出航予定です。」
「ヘルメス号?そうか判った。ありがとう、助かったよ。」
リランドはモニターを切るとサバーブたちの方を向いた。
「不味いぞ、サバーブ。ヘルメス号が一時間後に出航予定だ。」
「ヘルメス号……と言うとあの長距離旅客船か。」
「今の通信で俺たちがレルネー1に戻ることを海賊の手先が知ることになる。下手をすると連中に逃げられてしまう。」
「……連宋!」
「……駄目だ。ジャンプアウトできそうなラグランジェ点はレルネー1の近くにない。どの位置にジャンプアウトしてもここからとほとんど変わらない。」
「証拠はここにしかない。私たちに出来るのは全速力で航行するしかないのか……。」
エキドナ星系外周部からレルネー1まで流彗星号の移動速度では三時間はかかる。サバーブは時間的に首謀者の脱出を止めることが間に合わない事を理解し臍を噛んだ。




