三人の募集
どう考えても、宇宙船を買うのにはお金が足りなかった。
一人あたり300万クレジット。
これは大人が二、三年暮らせる金額だ。そんな金額を”こんなこともあろうかと”と言いつつ簡単に出せる金額ではない。
ならばどうするか?
「仕方がない。今は船を買う事を諦めて地道に稼ぐしか無いな。」
サバーブの言う通り単純に稼ぐしか無いのである。
「しかし船が手に入れられないのは参ったな。俺は道具を宇宙港の倉庫に預けたままだよ。」
「何だ?リランド、道具と言うとあれか?惑星制圧に使った……。」
「強化防護服だ。しかも重火器用の……。」
強化防護服、星域宇宙軍や連合宇宙軍の海兵隊が好んで使う武装の一つだ。
装備によってタイプは異なるがリランドの言う重火器と言うのは海兵隊の個人用火器で最大の威力がある荷電粒子砲のことであり、それを使用するための装備が重火器用強化防護服である。
「おいおい、それじゃ保管料だけでプライベートボート並みじゃないか。大丈夫なのか?」
連宋の憂慮は最なことである。プライベートボートの保管料で一般市民一人が一月生活できる金額なのだ。
「それは大丈夫だ。俺が預けているのは港湾局の倉庫、港湾局は星系軍の下部組織だ。保管料はそれほど高くない。精々一週間分の食事代と言ったところか……。ただ、場所が場所だけに港湾局が……。」
リランドの強化防護服は港湾局に貸し出すことで保管料を格安にしてもらっているらしい。その代わり港湾局が必要な時に貸し出すと言う契約がなされている。
今まではリランドが港湾局に勤めていたのでリランド以外が使うことは無かったがリランドは港湾局を退職したため別の人物が強化防護服を使うことになるのだろう。そして、貸し出している最中に強化防護服が壊れても払われる修理代は半分だけなのだ。
「背に腹は代えられんと言う奴だ。ま、あのスーツを使えるのは今のところ港湾局にはいないがね。」
「となると、後は仕事か……。私はスタトレの登録を済ませているが他のみんなは?」
スタトレ、正式名称をスタートレーダー協会。
セカンドライフが当たり前となったこの時代(人によってはサードライフもある)、太陽系連合内において人材を斡旋する組織である。
スタートレーダー協会はその中でも連合内最大の登録者数を誇る組織である。この連合内で仕事を探すのなら登録必須と言っても良い組織とも言えた。
「俺も大丈夫だ。」
「わしも前の港で済ませた。」
「それならトレーダー協会の募集サイトを検索するか……連宋。」
「はいよ。」
端末を操作していた連宋は素早くトレーダー協会の募集サイトに切り替える。
「で、どの募集から調べる?」
「そうだな……三人まとめて、ひょっとしたら三人まとめての募集があるかもしれない。」
「オッケー。」
サバーブの言葉を受け連宋は募集を検索し始めた。サバーブは冗談交じりに言ったが、検索していた連宋は意外な一言を発した。
「……あるぞ、三人まとめた募集。それも、パイロット、ナビゲーター、戦闘員(強化防護服所持者優遇)」
「「本当か?!場所はどこだ?」」
サバーブとリランドは連宋の操作する端末の画面をのぞき込む。
「オケアノス星系、ドーリスだな。」
「近いな。」
「おいこれを見ろ!サバーブ。強化防護服所持者優遇だと?判っているのかその募集者。それにパイロットとナビゲーターも必要と言う事は船しか持っていないのか?」
リランドの言葉に連宋が端末を操作しながら答える。
「内容から考えるとそう考えられる。だが、募集人員以外の問題点はない。給金もある程度の先払いで少し高いぐらいだね。」
連宋が画面を見ていたサバーブは少し首を傾げると指さした。
「この給金は何度か変更されているな。過去の募集条件は判るか?」
「そうだな。サーバー間の履歴をたどれば可能か……。この条件ならあるはずだしな。……OK。見つけた。給金は過去に三回変更しているな。他は変わりなしだ。」
「そうか、給金額しか変わってないのか……。なら募集はまだ終わってないな。」
「そうなのか?」
「パイロットやナビゲーター、戦闘員の単独の募集は随時行われている。この募集にも単独の募集はあったはずだ。だがこの募集は終わった形跡がない。雇い主は三人まとめての募集をしていると考えられる。」
サバーブは他の二人を見た。
「これは私たちに合った募集だと思う。」
サバーブの言葉を受けリランドは少し考えていた。
戦闘員(強化防護服所持者優遇)なら強化防護服を船に乗せることが出来るのだろう。採用された場合は保管料が必要なくなると考えてよいだろう。
それにこの募集は同じエキドナ星系のコロニーの一つ、リュキア7での募集だ。
同じ星系なら輸送費はそれほどかからない。雇い主との交渉次第ではレルネー1に寄港してもらえるかもしれない。
「俺は良いと思うぞ。連宋はどう考える?」
「わしは異論ないよ。三人とも雇ってもらえるなら意思疎通も楽だしね。それじゃ、募集に応募しとくよ。」
連宋が端末を操作し三人まとめて募集に応じると一分と待たずに返事が来た。
「え?もう返事が来たよ。何々面接場所の希望地を指定してください……?」
「偶然にしては反応が早すぎるな。端末の前で待っていたのか?」
「リランド、これは自動返信だよ。おそらく”三人一緒”の応募があった場合に返信するようにしていたのだろう。」
「三人が仲間同士である必要があるのか……何かあるのかな?サバーブはどう考える?」
「……現状の情報だけで判断するのは危うい。判断は雇い主に会ってからのほうが良いだろう。」
「OK.返事しておく。面接場所は”レルネー1”でいいよね?」
「「ああ、問題ない。」」
雇い主との面接は二日後、レルネー1にあるスタートレーダー協会の一室で行うことになった。
それまでちょっとした休日の様なものだ。
サバーブやリランド、連宋の三人はそれぞれ思い思いの休日を過ごしたのだった。