真の効果
人工知能は頭を抱えるサバーブたち三人の前に船長席の上で勝ち誇ったような顔で立つ。その顔を見たサバーブは人工知能に苦言を呈した。
「いくら赤ん坊の好感度が高いからと言ってそれはやり過ぎだろう。もう少し年齢を上げることは出来なかったのか?」
「む、そんなものなのか?だがまぁ良いだろう。成長剤と停滞剤を使えば任意の年齢に成長できるだろう。」
「成長剤?停滞剤?」
聞き慣れない言葉にサバーブは頭を捻る。
「成長剤は細胞を活性化させ生体ユニットを成長させる。停滞剤は逆に細胞の活性化を押さえ成長を止める薬です。停滞剤はメディックポットでの細胞活性化の際、一定以上接種することで特定の年齢以上若返らないようにすることが出来ます。ああ、そう言えばサバーブさんはその年齢になるように調整していたのでしたね。」
「はい?」
サバーブにとって聞き捨てならない情報が人工知能の口から発せられた。
「年齢を調整?何のことだ?」
「サバーブさんは停滞剤を使って一定以上若返らないようにしていたのでは?」
「いや、私は停滞剤と言う薬は知らないが?」
「?サバーブさんたちが持って行った……持って帰ったか?あの薬ですよ。確か……。」
そう言うと人工知能は流彗星号のメインモニターに停滞剤の錠剤を映し出した。錠剤が映った画面を見たサバーブたちは驚きの声を上げる。
「「「この錠剤は完全防止薬!!」」」
驚きの声を上げるサバーブたちを見た人工知能は物憂げそうにため息を吐いた。
「完全防止薬?ああ、そういえば老化を停止させる目的で使っていたのでしたね。でもこの薬の本来の目的はある年齢以下に若返らないようにするための薬です。」
人工知能の言葉を再度聞いたサバーブは何かを思いついたのか動きが止まる。
「……もし、性能の悪い完全防止薬だったらどうなる?」
「……当然、若返り防止効果が薄れることになるでしょう。」
その言葉を聞いたサバーブはがっくりと項垂れる。
「なんて事だ。私がこの年齢なのは老化防止薬を使っていたからか!」
その言葉を聞いた連宋が驚きの声を上げる。
「何だって?どういう事何だ?」
「私とリランド、連宋……そしてミカエルさんの年齢差がなぜ生じたのかの回答だよ。知っての通り私は連合宇宙軍に所属していた。その為、退職までの間、常に老化防止薬を使うことが出来た。しかし、星系軍のリランドに支給される薬の量は私より少ない。また途中退役をした連宋は退役した後からは老化防止薬を使っていないのだろう?」
「そうだな、老化防止薬は民間で手に入れるにはかなりの値段が必要だからね。」
それまでの話を聞いていたリランドがポンと膝を打った。
「そうか!だから全く使っていないミカエルさんはあの年齢だったんだな。」
「そうだ。私もまさかこんな事が原因だとは考えも付かなかったよ。」
「そうだな。俺も老化防止薬を使わなければもっと若返ったかもしれないが……使わないという選択肢はないよな。」
リランドの言葉にサバーブと連宋は大きく頷く。その様子を見ていた人工知能は困ったように話しかけた。
「……納得しているところ悪いのだけど、そろそろ私の名前を考えてくれないか?」
「え?名前?」
連宋は意外そうな顔をした。どうやら名前を考える気は無いようだ。リランドは腕を組み少し考え込む。
「名前ね……そう言えばいまあれが立っている場所は船長席だったな、サバーブ。」
「そうだ。ひょっとして歴史上の船長から持ってくるのか?」
「それも良いかと思ったが……ああ、めんどくさい。B、B言っていたからキャプテンBで良いだろう。」
リランドの発言に人工知能は慌てて口を挟む。
「ちょ、ちょ、ちょっとそんないい加減な……。」
だが、連宋はリランドの言葉に大きく頷いていた。
「キャプテンBか。語呂的にも問題は無いな。わしは大五郎とか考えていたのだが……。」
「わたしは女だ!」
人工知能の反論を聞いた連宋はニヤリと笑う。
「そうだったのか?では“大五郎”と“キャプテンB”どっちが良い?」
「何という選択!……くつ!どちらかというとキャプテンBの方が……。ふわぁぁぁは考え出すと眠くなってきた。この生体ユニットは意識の維持が……。」
そう言うと人工知能はベッドに倒れ込みすやすやと眠りにつく。その姿を見たリランドは両手を合わせ大きく一回頷く。
「よし!決を採るぞ。異議がなければ決定だ。何なら名前通り“船長(代理)”に任命してやろう。」
「ZZZZZ……。」
「よし、異議はないようだ。これからこいつの名前はキャプテンB。長いから普段は”ビィ”でいいな。」
かくしてここに史上最年少?の船長代理が誕生した。だがその名誉とは裏腹にその栄光を受けた人工知能、キャプテンBは疲れたようにすやすやと眠り続けた。




