史上最年少ヒロイン(自称)爆誕!
人工知能は自分よりはるかに大きな人が座る椅子に腰掛けていた。この椅子は流彗星号の船橋まで直通である。
その椅子の上で人工知能は思った。ついにこの時が来たのだ、この日の為の準備は万全だ。
思えば苦労の連続だった。
私のような存在が観測対象者の前に姿を現す場合は極力排除されない様にする必要がある。
その為には観測対象者と友好関係を結びやすいように観測対象者の好みの姿や庇護を誘う姿などをとることが基本とされている。
つまり観測対象者のヒロインになれば良いのだ。
問題は今回の観測対象者が三人であると言うことだ。必然的に観察対象となる三人の好みを分析し共通項を探り出す事になるのだがこの三人、恐ろしいほど好みの共通項がない。三者三様、それぞれの好みが異なる。
二人の共通項というものはいくつかあったが三人共通というものがないのだ。
仮に二人の好みに合わせていると一人からは好ましく思われず以降の観測に支障をきたすと言うシミュレーション結果が出た。
計画は頓挫するかのように思われた。
しかし私は逆のことを考えた。三人の観測対象者の好みを採用しようとするから計画に行き詰まる。
逆に観測対象者が所属する種族全体の好みの傾向と観測し対象者たちを比較することで問題は解決できるのではないか?
わたしは彼らのネットワークからの様々な知識を検索し、観測対象者の好みを加味しこの今の姿にたどり着いたのである。
<では、行きましょうか……彼らの驚く顔が楽しみです。>
人工知能は椅子に備え付けられたスイッチの一つをオンにした。
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連宋は流彗星号のメインスクリーンに睨みつけている。その様子をサバーブとリランドは興味深そうに眺めていた。
その三人の後ろ、丁度船長席がある位置から音が聞こえた。
三人が振り向くと気づかない間に船橋の上部にある船長室へ上がっていた座席がゆっくりと降りてきた。
「諸君、初めてお目にかかる。私がこの流彗星号に搭載された人工知能の外部端末だ!」
サバーブたち三人が降りてくる船長席に目を向けると椅子の上には乳児用の小さなベッドが置かれ、その中には両腕を組み仁王立ちをする乳児が立っていた。ご丁寧に虎の着ぐるみを着た姿だ。
「「「何じゃそりゃ!!」」」
サバーブたち三人の声が流彗星号の船橋に響いた。
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乳児はサバーブたちの前で威風堂々とした姿……だと思っているようだ。
「この姿で現れたことは君たちには疑問があるだろう。これは私の調査で判明した人類に好感度を与える三つの要素……三つの”B”を極めたものだからだ。」
そう言うと船長席の椅子の上から乳児用のベッドが浮き上がる。どうやら小型の重力制御装置を使っているようだ。
「まず一つ目は”ベィビィ”のB!見よ!このプニプニとした可愛らしい姿を!!」
そう言うと手を体の前でクロスさせ決めポーズのような格好になる。
「次の一つが”ビューティ”のB!ふむ、自慢じゃないが私は将来美人になるぞ!」
「「「……」」」
「最後の一つが”ビースト”のB!虎のきぐるみで完璧だっ!これでヒロインの座は私に決定だっ!」
両手を上げて猫パンチのポーズだ。率直に言って”かわいらしい”としか言いようがない。
リランドが頬を掻きながら乳児に話しかけた。
「あ……と何だな……名前なんだっけ?」
「あ、そうか。名前か……そうだ、諸君には私の名前を付ける権利を与えよう。レディでもメルフィナでもヘルヴァでも好きな名前をつけ給え。」
「権利を与えようって、どこのワーグナーだ?それにお前は生命金属製なのか?航法支援が出来るのか?歌うことが出来るのか?」
人工知能はサバーブのツッコミの前に腕を組み頷くと、胸を張りながら答える。
「当然、生命金属ではなく君たちと同じ体組成だ。航法支援は出来るはずはないし、歌は生まれてこの方歌ったことはない。」
「……つまり?何ができる?」
「諸君らは乳児の私に何を期待するのだ?」
サバーブたち三人は厄介ごとが増えたとしか思いようがなかった。




