お約束の台詞
流彗星号はいつもの様にラグランジュ点からハイパワージャンプを行う。ただ今回はいつもと違う点が一つある。
いつもと違うのはジャンプの距離だ。いつも通りなら小惑星帯を飛び越えた場所までジャンプするのだが今回は小惑星帯の手前までの短いジャンプを行った。
流彗星号の操縦桿を握っているサバーブは目をこらしてスクリーンに映る小惑星帯を見つめる。
「さて、どの位置で出てくるか?どう思う?リランド。」
「そうだな。まだこの位置では出てこないだろう。連宋、船倉の動きはどうだ?」
「連絡用の電波が出ているな……どうやら船倉の連中はジャンプ終了と同時に動き出したみたいだ。コンテナの内部から音も聞こえる。音からするとあのコンテナの何処かがスライド扉になっている様だよ。」
連宋の報告を聞いたサバーブが手を上げて降参するような格好をする。
「で、開けたら金属の壁があるわけだ……。」
「その位で奴らは諦めないだろうな。問題は何処まで突破されるかだな。」
顎に手を当て考えるリランドに連宋が声をかける。
「全部突破されても大丈夫だよ。下部船倉への通路は全て閉鎖しているし置いてあった武器や道具類は全て上の船倉に移している。いざとなれば下部船倉の外部ハッチを開放すれば良い。」
「おいおい、連宋。宇宙はゴミ捨て場じゃないぞ。」
「後でちゃんと分別回収するさ……。」
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流彗星号が小惑星帯の間を通り次のジャンプポイントを目前にした時、その連中は小惑星帯の影から現れた。
大きさからすると中型商船を改造した船が一隻、流彗星号の進路を妨害するかのように船を進めてきた。
斥力フィールド展開中でも届くように通信用の光波を飛ばしてきている。連宋は海賊船からの通信を受け取るとサバーブの方を見る。
「海賊から降伏勧告が来たぞ。どうする?サバーブ。」
「返答は当然決まっている。」
サバーブの通信内容に対する返事は決まっているようだった。
「返答は”馬鹿め”だ。」
「”馬鹿め”か……お約束の台詞だねぇ。」
そう呟くと連宋は操作パネルの上で軽やかに指を動かす。
「OK!返答”わかめ”じゃなくて”馬鹿め”……うひゃー!怒ってる。怒ってる。」
連宋が通信を送ると気が狂ったかのような怒鳴り声が聞こえてく様だ。
「連宋、あれが商船改造の宇宙船として。推進器と燃料タンクは何処にある?」
「燃料タンクか……あれは白鶴型商船だから燃料タンクは……ここだ、プラズマジェット推進器の少し前の位置だ。燃料タンクを挟んで反対側にジャンプドライブがある。メインリーンに投影するよ。」
サバーブは連宋がメインスクリーンに映し出した船の絵を見ながらリランドに声をかける。
「リランド、二つの目標、推進器とジャンプドライブだけを撃ってくれ。」
「判った。だが狙うにはこの位置ではジャンプドライブだけしか狙えないぞ?」
「まかせろ!流彗星号全速前進!」
サバーブは流彗星号を上下左右不規則に操縦し海賊船の横に回り込むコースをとった。
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一方、流彗星号の目の前に現れた海賊船内では蜂の巣をつついたような騒ぎが起こっていた。
「あいつら俺たちをなめやがって!」
「目にもの見せて……おい見ろよ!あの動き!」
海賊連中はジグザグに動く流彗星号を見て誤解する。
「ああ、今頃あの船内はドンパチの真っ最中だ。俺たちは待っているだけでいい。」
「待っているだけ……今回も楽な仕事でしたね。ボス。」
「ああ、あのリランドがいると思って警戒したが開けてみればこの通りだ。ぐはははは。」
海賊のボスらしい男が大声を開けて笑う。だがその笑い声をあげていた口も流彗星号が光った瞬間、別の声を上げることになった。
流彗星号から発射された二発の荷電粒子砲のエネルギーが正確に推進器とジャンプドライブを貫いたのだ。
「な、何だ!今の光は!!」
航法を担当していた手下が大声を上げる。
「ボス大変です。推進器とジャンプドライブに直撃を受けました!この船は動くことができません!」
「「「「「「何だって!!!」」」」」」
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流彗星号は海賊船に砲撃を加え急速離脱を行った。推進器を壊したことで海賊船は移動できないだけでなく旋回さえできなくなっているらしい。その為、砲撃のために流彗星号に砲を向けることができないようだ。
海賊船そのままに流彗星号はショートジャンプを行い、その場を離れる。
「とりあえず。奴らは移動できない。ジャンプドライブも壊したからあの場に釘付けだ。リランド、あとは港湾局に連絡すれば終了だな。」
「そうだな。連絡は俺がしておこう。この後、どちらに移動する?」
「そうだな……オケアヌス星系に行くのも良いが、エキドナ星系ならこの位置からだとロングジャンプの距離が少し短い。エキドナ星系に戻るか?」
「そうだな。その方が報告もしやすい。連宋はどう思う?」
「……エキドナ星系に戻るのがいいかな……でもちょっと待ってくれ二人共。その前にやることがある。」
「「?」」
連宋は座席から立ち上がると声を上げた。
「いるのだろう。出てこい。わしたち三人に送られたメールでわしは確信した。」
その姿は流彗星号を睨み付けている様に見えた。




