マトリョーシカ
五人のガラの悪そうな連中がマイクロバスほどの大きさの部屋にたむろしている。
彼らの側にはそれぞれが使う獲物、光線銃や加熱短剣が何時でも使えるように準備されていた。
「……動きが収まったようだな。よし、野郎ども!そろそろ出航のはずだ。獲物の準備は良いか?」
「へい。準備万全ですぜ。まぁ、でっけぇのじゃ無くて軽いのが今一つですが……。」
大柄で筋骨隆々とした男は少し不満そうだ。その男からすると光線銃は豆鉄砲の様な物なのだろう。
「心配するな。お前の好きな大物はすぐに手に入る。何しろ今回の標的にあのリランドがいるからな。」
「リランド!港湾局のあいつかっ!奴には仲間が何人も病院送りにされているからな!」
「知っているだろう。リランドの奴は重火器用の強化防護服を持っている。当然、強化防護服用の重火器は勿論、通常使う重火器も持ち込んでいる。」
「そいつは良い。その重火器は俺がありがたく使ってやる。奴も自分の重火器に撃たれるのなら本望だろう。」
「「「「違いねぇ、ゲボハハハハハ。」」」」
大笑いする連中の一人が首をかしげ笑いを止める。
「でもボス、どうやって出港したことがわかるんでさぁ?」
「何だ?お前、そんな事も判らないのか?」
言われた男は頭をかきながら二、三度頷く。ボスと呼ばれた男は大笑いを止めため息を吐いた。
「いいかよく聞け。惑星間を航行する際には斥力フィールドを張るのは知っているだろう?そいつは物体だけでなく俺たちが通信で使っている電波も一部弾いて弱くなる。逆に言うと電波が弱くなった時が斥力フィールドを張った時、つまり出航した時というわけだ。」
「なるほど。」
「ま、俺たちが活動を開始するのはジャンプした直後。ジャンプの緊張から解放された時だ。」
「「「「合点で!」」」」
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流彗星号の下部船倉ではリランドと連宋が修理用の鋼材を使って何やら工作を始めた。
「リランド、この鋼材で何を作るんだ?」
「箱だよ。そうだな、大きさは隣の箱より一回り大きい箱を一つ。その次は作ったより一回り大きい箱を大きい箱を一つ。と、だんだん大きくなる箱を作る。」
「ふーん。でその箱の開け口は?」
「無いぞ。十二辺全てフル溶接だ。十二辺と言っても最後の四辺は箱を入れた後で溶接するんだがな……。」
そう言ってニヤリと笑い船倉に置かれている箱を指さした。
「……マトリョーシカか。」
「そう言うことだ。ジャンプまでに終わらせて、終わったらこの船倉の武器や道具類は上の船倉に移すぞ。」
「OK。早速取りかかろう。」
リランドと連宋はお互いの顔を見合わせニヤリと笑うと行動を開始した。
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どんな宇宙船でもハイパワージャンプを行う時には多少の振動が発生する。たとえ魔改造を行われた流彗星号でもその振動は発生する。
その振動を感知したのかボスと呼ばれていた男は手下に号令をかける。
「……ジャンプしたな。よし!野郎ども!行動開始だ。ハッチを開け!」
手下の一人が部屋にある端末を操作すると部屋の一部がスライド扉のように開いてゆく。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
開いた扉の向こうには金属の壁が存在していた。
「何じゃこりゃ!どう言うことだ?」
ボスは金属の壁を手で叩いた。金属の壁の向こうは隙間があるのか金属を叩く音が響く。
「?どうやらこの壁の向こうは空洞のようだな……。おい、野郎ども。この壁をぶった切れ。」
何人かの手下が加熱短剣を持ち金属の壁に切りつけるが傷一つ付かないようだ。
「ボス、この壁、船の外壁の材料のようですぜ。加熱短剣じゃ傷一つ付けられません。」
「頭を使え、頭を。加熱短剣で駄目なら光線銃を使えばいいだろうが!」
光線銃は威力が高いと言っても対人用であり対艦用ではない。その為、一つの通り道を作るのに光線銃用のカートリッジの半分を消費してしまった。
「……ボス。また壁ですぜ。」
「くそがっ!また光線銃で切ればいいだろう!」
しかしその壁に通り道の穴を開けてもまた壁があることを彼らは知らない。




