方針確認
スタートレーダー協会から流彗星号の船橋に戻った途端、サバーブ達三人はお互いに顔を見合わせると大笑いし始めた。
「ハハハハハ、なんだあのトルダって奴、怪しすぎるだろう。」
「グハハハハ。そう言うなサバーブ。あれでも自分は紳士だと思っているんだぜ。」
「SHINNSHI!ヒィヒィヒィ、あ、あれで紳士なら誰でも紳士だね。」
「確かに連宋の言うとおりだ。奴が紳士なら気の荒い港湾の連中も紳士だ。」
三人はひとしきり大笑いした後、お互いに顔を見合わせた。そんな中、リランドが咳払いをして自らの見解を述べる。
「トルダの奴が俺たちを次の目標にしたのは間違いないだろう。おそらく海賊に俺たちの予定航路を教えているのだろう。」
「待ち伏せか……今の流彗星号なら予定航路通りだがジャンプの到達地点を変える事で対処できる。リランド、この近辺の海賊の装備は?」
「ほとんどが商船を改造した物だ。良くて荷電粒子砲がついている型落ちの駆逐艦ぐらいだ。改造商船の武装は光子騎兵銃の型落ちがほとんどだな。」
リランドの言葉に連宋が疑問を投げかける。
「すると、この間の海賊が乗っていた軽巡洋艦は珍しいのかい?」
リランドは少し考えると連宋の疑問に答えた。
「無いわけではないが……このあたりの宙域でお目にかかったという記憶はないし、記録もないな。サバーブの方はどうなんだ?連合宇宙軍の認識では?」
「私の知っている限りでも規模の大きな海賊は持っていたが、暗黒宙域に出る海賊で軽巡洋艦を持っているのは初めてだな。」
「と言う事は、相手は商船改造の海賊船か……何隻ぐらいだろう?商船を囲むなら最低三隻は必要だね。」
船を拿捕する場合、逃げ道を塞ぐ為に二隻、接舷するために一隻の合計三隻の船が必要とされている。海上なら二隻で捕縛は可能だがここは宇宙である。前後左右だけでなく上下にも逃げ道はあるのだ。
「さてね。海賊連中は小規模な連中で一隻、中規模な連中で五、六隻ぐらいだな。さらに宇宙船を集めている海賊は間違いなく連合宇宙軍の攻撃対象となる。連合宇宙軍に狙われて生き残っている海賊を私は知らない。」
実際サバーブの言う通り、連合圏内に大規模な海賊団は存在しない。たとえ辺境であっても海賊連中が手を組みそうになると連合宇宙軍は訓練がてらに出動し海賊連中を蹂躙するのだ。
従って、辺境とは言えエキドナ星系近傍に出没する海賊団は五、六隻ぐらいの海賊団となる。
リランドは右手を顎に当て腕組みする。
「とは言ったものの海賊連中が待ち伏せ以外の手をやってくる気がするんだよな……。そう思わないか?」
「うむー。今の状況じゃどんな手を使うのか、わしには見当もつかん。」
「連宋の言う通りだ。でも見当もつかないことは考えても仕方がない。今は予定通りに行動するしかない。」
「ならどうする?サバーブ。」
「ジャンプの到達地点を変更することで回避できるが、今回は奴らの思い通りのジャンプをしてみようと思う。」
リランドが興味深そうに声を上げる。
「ほほう。で?海賊連中が待ち伏せしていたら?」
サバーブはにやりと笑って答える。
「流彗星号の装備で殲滅だな。」
方針が決まればサバーブ達の行動は早い。一時間もかからずに次の仕事(と言っても何時も通りの輸送だが)の準備を完了する。
そんな時にレイチェルからリランド宛に秘匿通信でメールが送られてきた。
連宋の疑問
「サバーブ、前から疑問だったのだが……何故、海賊と言うんだ?宇宙なら宙賊と言うべきなのでは?」
「昔、マスコミが宇宙船を襲っている連中の行為を”海賊行為”といったことが始まりだな。一度マスコミに定着してしまったら間違っていても広かってしまうと修正は効かない事例だな。”この宇宙時代に前時代の海賊行為が……”という内容だと記憶している。」
「一度世の中に認知されてしまうと覆すのは難しいと言う奴だな。」




