トルダ副支部長
トルダによると老化防止薬は老化の速度を緩めてくれる効果がある。しかしあの薬品は老化を完全に止めるのだそうだ。
私たちが使っている老化防止薬は異星人の遺跡から出土した薬品を研究した結果出来上がった物。つまり元々は異星人の薬品だったのだ。
だからあの薬品の名称は完全防止薬と言う名前が相応しいのだそうだ。
「それで支払いなのですが……。」
「聞かせてもらいましょう。」
サバーブは両太ももに手を置き身構えた。
三千二百万クレジット程度の支払いをスタ-トレーダー協会が現金で払えないわけはない。わざわざ別の支払い方法を提示すると言う事は何か目的があると言う事なのだ。
「そんなにかしこまらないでください。支払いを物納でもかまわないのかお尋ねしたかったのです。」
「物納?」
「はい。今現在皆さんがお使いになっているドックとその周辺の施設。これらをお買い上げにならないかと言う事です。」
サバーブ達が使っている宇宙船用のドックはレルネー1でも端にあるのでレルネー1の中心街から最も遠い位置のドックである。中心街から最も離れているドックなので利便性が悪い。その為、ドックの使用料金も月五千クレジットと最安値である。
ドックの周辺には船を整備するための施設や事務所がある。それらを含めて買い取らないかと提案しているのだ。
「少し待っていただいてもよろしいでしょうか?そうですね今請け負っている輸送の仕事が片付くまでに答えをお出しします。」
トルダは目を瞑ると腕組みをすると何かを考え始めた。そして目を瞑りながら組んだ腕の指でキーボードを叩くような仕草をし始めた。
そして不意に指の動きが止まるとトルダの目が開く。
「返事は請負の仕事が終わった後と言う事で……。次の機会にはいい返事を期待しておりますよ。」
―――――――――――――――――――――
スタートレーダー協会から戻るなり三人は額を寄せ合っていた。
港湾施設の購入についてサバーブや連宋は問題ないと思っていたが、リランドは懐疑的だった。
「港湾施設を買い取るのは良い。だがその提案をしたのがトルダでなければ俺も反対はしない。」
「リランド、トルダはそんなに問題のある男なのか?」
「ああそうだサバーブ。奴が関わったと思われる行方不明の宇宙船が少なくとも五隻ある。その内二隻は海賊に拿捕されたことが判っている。」
リランドの言葉に連宋が驚きの声を上げ疑問を呈した。
「五隻も!だがそんな奴が何故副部長をしているんだ?」
「不思議なことに、その五隻にトルダが関わったと言う資料が出てこない。そして実際に係わったとされている協会職員は行方不明だ。」
「限りなく怪しいな……。」
「おそらく奴は対象となった船の航路を海賊に知らせているのだろう。ま、今の流彗星号なら海賊が何隻来ようが拿捕されることは無いが……。」
サバーブはリランドの言葉に軽く頷いた。
「航路か……“航路指定”があった場合は要注意と言う事だな。」
その要注意である“航路指定”が既になされているとはこの時誰も知らなかった。
―――――――――――――――――――――
サバーブ達が部屋から出た後、トルダはため息を吐いた。そして貴賓室の中で独り言をつぶやく。
「さて、ヤツはあの場所を購入するかどうか…………違和感を持たれない金額まで安くしたのだが……。購入すれば奴らの動向を確認する事が出来るが……。リランドの奴がいるから搦手を考えたが思い通りには進まないな。やはりいつもの方法の方が楽か……。」
トルダは懐から携帯端末を出し電話をかける。
「……私だ。」
「これはトルダさん。何の御用で?」
「次の仕事だ。外れのドックに積み込まれる荷物を例の物と交換しろ。だが気をつけろ。目標の船には三人、その中の一人はあのリランドだ。」
「ひゅー。リランドですかい?奴には今まで多くの仲間がお世話になっているからお礼が出来るもんでさ……。」
「気をつけろよ。他の連中もリランドと同じくらい厄介だと思え。航路の方は追って知らせる。」
しかし、予想もしていないモノが覗き見をしているとは誰も気づかなかった。




