謎の薬品
サバーブ達はレルネー1の宇宙港に流彗星号をいつもの場所に係留するとスタートレーダー協会の事務所に向かう。輸送依頼の終了報告と以前から頼んでいた異星人の薬品の鑑定結果を尋ねる為である。サバーブ達三人は足取りも軽やかに協会の事務所に向かう。
事務所の受付ではいつもの様にレイチェル嬢がにこやかな微笑みを浮かべて待っていた。サバーブ達三人の姿を見ると立ち上がり深々とお辞儀をする。
「本日はようこそおいでくださいました。リランド様、サバーブ様、連宋様。」
いつもと違う対応の為、サバーブ達は一瞬思考が停止した。間髪を容れずレイチェルは言葉を続ける。
「詳しいお話は……」
「レイチェル君、待ちたまえ。」
サバーブ達を案内しようとするレイチェルに待ったがかかる。
声の方へ顔を向けるとアッシュグレイの髪を短く切りそろえた小太りの壮年の男が立っていた。
「トルダ副部長……。」
「レイチェル君、彼らへの対応は私が受け継ごう。物が物だけに私が行うべき案件だろう。君は受付の業務に戻り給え。」
レイチェルは何か言いたそうにしていたがサバーブ達の方へ一礼すると自分の座席に戻っていった。
「では皆さん、どうぞこちらへ。」
リランドは案内をするトルダの背中をじっと見ながら眉間にしわを寄せていた。
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トルダに案内された別室は協会でも特別な人間しか入ることのできない貴賓室だった。部屋の中には品の良い応接用のソファセットが設置されている。そのソファの前でトルダはサバーブ達三人に椅子をすすめ三人の正面に座った。
「君たち二人とははじめてお目にかかる。私はトルダ・カラハン、スタートレーダー協会のエキドナ星系支部の副部長を務めています。」
協会と言う身分を聞きサバーブと連宋は思わず顔を見合わせる。自分たちが協会に呼び出されるとは予想もしていなかったからだ。何か問題のある行動をしてしまったのかと考えたからである。
二人とは反対にリランドはソファに背中を預けトルダを懐疑的な眼差しで見ていた。
「で、トルダ。わざわざこの部屋に呼びつけて何の用だ?」
そんなリランドの姿を見たトルダは微笑みを浮かべた。
「ここにお呼びしたのはあなた方が一月ほど前に鑑定に出された薬品についていくつか質問したいことがあるのでこの部屋にお呼びしました。」
サバーブと連宋はトルダが薬品について聞きたいと言った事で安堵の表情を浮かべた。しかし、リランドは懐疑的な眼差しは崩していない。
「それで薬品について聞きたいことと言うのはどんな様な事だ?」
リランドの問いかけにトルダは両手をテーブルに置き身を乗り出した。
「あの薬品はあとどれだけの量がありますか?それとあれを手に入れた遺跡はどこにあるのでしょうか?できればその場所をお教え願えないでしょうか?」
「手に入れた場所……?」
「無論、ただとは申しません。しかるべき金額をお支払いいたします。」
トルダの真剣な様子にリランドはサバーブの方へ顔を向ける。
サバーブ達にとって薬品を手に入れた場所を話すと言う事は流彗星号についても話すと言う事と同じであり厄介ごとの臭いしかしなかったのだ。
「あの薬品はあと7カートン。場所は……いう訳にはいかないな。」
「7カートンですか。しかし場所の方はお話しいただけないと?」
「ああ、当然だろう。他にめぼしい物があるかもしれない場所を他人に教えて何の得がある?」
「……難しいと。」
トルダは額に手を当てしばらく天を仰ぐ。
「判りました。では場所については残念ですが諦めましょう。ですが残りの7カートンを含めて8カートンの薬品の取引をお願いします。」
「8カートン全か?それで取引価格はどの程の金額になるんだ?」
トルダは自分の端末を操作し見積りの金額を表示させた。その端末をサバーブ達三人が同時にのぞき込む。
「……薬品一本につき……。」
一瞬の沈黙の後三人は異口同音に驚きの声を上げる。
「「「二万クレジット!!!」」」
直ぐに連宋が薬品の個数を指折り数える。
「サバーブ、1カートンに箱が十個だったな?」
「その通りだ。そして、その箱には薬品が二十本入っている。」
「全部で千六百本つまり……。」
「「「三千二百万クレジット!!」」」
あの薬品だけで退役時の退職金よりも多くの金額が手に入る。その事に三人は驚きを隠せない様子だ。なぜそのような金額になるのか、サバーブはふと疑問に思った。
「一本二万クレジットと値段をつける薬品はいったい何なのですか?買い取りで二万クレジットなら老化防止薬よりも高いと言う事になりますが?」
「なるほど。確かに皆さんの疑問も最もです。がこの金額設定は妥当なものと考えております。あの薬品の中身は老化防止薬です。」
「「「??????」」」
三人の頭に疑問符が浮かぶ。同じ老化防止薬よりも高い金額をつける理由が判らないのだ。
「ただし、あの薬品は一般的な老化防止薬ではありません。言わば完全防止薬と言うべきものなのです。」
トルダから出た言葉は驚きの言葉だった。




