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酒場“ローバー”

 遠くからの旅人や宇宙を行き交う男たちが待ち合わせる場所。その様な場所は古来より場末の酒場と決まっている。

 コロニー型宇宙港“レルネー1”居住区画の一角にその酒場はあった。


 酒場“ローバー”


 酒場は恒星エキドナの光を反射したハイドラの青い光(ハイドラ光と言うべきか)に照らされていて酒場を訪れる者の影を生み出していた。

 その店の前に三つの影が映し出される。


「おう。」

「やぁ。」

「久しぶり。」


 連宋、サバーブ、リランドの三人は店の前で鉢合わせると異口同音に言葉を発した。


「「「お互い老けたなぁー。」」」


 彼ら三人は、連合宇宙軍、星域宇宙軍、連合宇宙軍情報局と別々の場所で仕事をしてきた為、個別に合うことはあっても三人が一堂に会するのは実に三十年ぶりである。


「ま、老けたと言ってもサバーブは三十代前半でも通じるぞ。」


 リランドは挨拶代わりにサバーブと軽く拳を合わせる。


「私が少しだけ若くみえるのは”ブースター”のおかげだけどね。」


 サバーブが言う”ブースター”とは老化防止薬のことである。

 この薬、老化防止薬は正式名称を”アンチエイジブースター”と言い、名前が長いので一般には単に”ブースター”と呼ばれている。

 この薬の効果は若返るような劇的なものではない。老化するのを半分から四分の一遅くするだけの薬である。

 しかし、宇宙軍や星系軍では所属軍人には優先的かつ無料で配られている為、その恩恵を受けている人々は多い。


「わしももう少し軍に居られたら十分な”ブースター”の支給があったんだけどなぁ……。」


 連宋の言うのは”ブースター”を一般で手に入れるにはかなり値段は高いからだ。その為か一般の船乗りは”ブースター”の恩恵を受けていないことが多い。また、連合軍や星系軍でも軍属には支給されるが一般職への支給は実戦部隊より少ない。

 その為、八年前から一般の船乗りと同じだった連宋はサバーブより老けて見え、軍の一般職に配置転換されたリランドは少しだけ老けて見えるのだ。


「まずは店に入り一杯飲みながら計画について相談しないか?」


「そうだな。」「うむ、同意だ。」


 サバーブの提案にリランド、連宋の二人も同意し店に入っていった。


 ------------


 酒場“ローバー”はメインストリートから大きく外れた場所にあるので数人の常連が訪れる程度の酒場だ。

 海坊主の様なサングラスをかけた口数の少ない店主一人でやっており密会や密談にもってこいの酒場である。

 その“ローバー”の店内の片隅で三人の男たちが額を寄せ合い情報端末を見ていた。

 連宋が手に持つ端末は誰も操作をしていない様に見えるが画面だけは目にも止まらない速度で切り替わったかと思うと突然何事も無かったかの様に停止した。


「ブラジオン級、ブラジオン級……サバーブ、どこだ。無いぞ?」


「無い?私が船で見た時はあったのだが……。」


「ああ、あれだ。ジャンプ・ラグだな。」


 宇宙時代における星系間のデーターのやり取りはEPRチャンネルを使った量子通信なのだが、ハイパワージャンプの間その通信を受けることができない。これは亜空間では時間と空間がねじ曲がっているのでEPRチャンネルを保持できないからだ。

 その為、ハイパワージャンプを行う船には量子通信装置は搭載されておらず、昔ながらの電波での通信となる。超光速通信である量子通信とは違い光の速度を超えることが出来ないためデーターが更新されるまで数時間、遅い場合だと数週間かかる。

 その為“最新”だと思っていたデーターが、更新のズレから“古い”データーだったと言うがあるのだ。


「で、連宋、現在最安値のブラジオン級は?」


「5700万クレジット。」


「俺達が宇宙船購入に使える退職金の合計は?」


「5000万クレジットだ。」


「……。」「……。」「……。」


 しばらく沈黙した後、ため息を吐きながら異口同音に呟いた。


「「「無理だな。」」」


 しばらく目をつぶっていたサバーブが連宋に尋ねた。


「過去のブラジオン型。幾らぐらいで何時売れたか判るか?」


「今後の価格の参考にするのか?ちょいと待ってな……。」


 一時止まっていた端末の画面が目にも止まらない速度で切り替わり始めた。


「うーん。サバーブが見た5000万クレジットの宇宙船、番号が“TKOG-CTRY-DAG7”という船、検査が七回の八十年物が過去最低だな。」


「TKO?」


「格闘技の用語みたいな番号だな。」


 サバーブとリランドにとって奇妙な番号のように思えたのだろう。


「で、こいつは三週間前に売れたみたいだ。今売りに出ている5700万クレジットでも過去三番目の安さのようだぞ。過去十年の落札の平均は6000万クレジットだな。」


「……6000万クレジットを用意しなくてはならないのか。一人300万クレジット……。」


「とりあえず一、二年の生活費を削れば俺の分は出せるな。」


「わしも出せないことはないが、生活費がなくなるな。」


「私も同じだ。」


 新しい生活セカンドライフの為に宇宙船を手に入れようとすると新しい生活セカンドライフが出来なくなるという問題に直面してしまった。


 「さてどうしたものか……。」

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