いつもの業務
ミカエルから流彗星号をボーナスとして贈られて一か月。
サバーブ達は株式会社サリーレを立ち上げた後、近隣星系までの物資の移送の依頼を何件か請け負っていた。
近隣星系までなら流彗星号のジャンプドライブなら往復でさえ一日とかからない。だが、通常の輸送宇宙船は近隣星系まで二日、往復だとメンテナンスを入れて五日はかかる。
サバーブ達はあえてジャンプの距離を短くし、他の宇宙船がジャンプ出現位置に設定しない宙域を移動していた。手間はかかるがトンデモ宇宙船に乗っていることが発覚しない様にするには必要な事だった。
しかし、悪い事ばかりではない。
他の宇宙船がジャンプ出現地点に設定しない宙域と言うのは宇宙海賊連中も出ない宙域でもある。その為、何件か輸送依頼を行ったがまだ一度も宇宙海賊には会っていない。
最も、流彗星号の装備だと宇宙海賊自体が相手にならないのは別の話である。
流彗星号はオケアヌス星系のステュクスへ物資を輸送する依頼が終わり一路、レルネー1への帰路についていた。
流彗星号の船橋にはいつも通りの席に三人が座りモニターを監視したり居眠りをしたりしている。
そんな中で、連宋はしきりに首を傾げていた。その姿に疑問を思えたサバーブは連宋に声をかけた。
「どうした連宋、何か気になることでもあるのか?ひょっとして妙な視線か?」
「うーん。視線じゃなくて……なんだか微弱な電波がどこからか送られてきている様な……。方向が今一つ判らなくてどうしたものかと……。救難信号の様にも思えるのだが……。」
連宋はサバーブ達三人の中で最も異星人の恩恵を受けた。一つが三人の中で最も若返った事ともう一つが超能力の強化である。
超能力が強化され攻撃に使える様になったわけでは無いが、電波の感知範囲が強化された。以前は自分の周囲10mほどだったのが周囲100mと格段に広がっているのだ。
その為、流彗星号の外の斥力フィールド外の宇宙空間も範囲に入れる事ができ微弱な電波を受け取ることが可能になっていた。
「それなら一光年のショートジャンプをしてみるか?今の位置の電波の強さと一光年先での電波の強さから発信源を特定できるだろう。罠の可能性もあるが救難信号なら……。」
「救難信号か……救難信号なら電波がぎりぎり届いているような感覚から考えると最大到達距離だと思う。たしか二十光年だったから二十年前の救難信号になるんだよなぁ……。」
「二十年前の救難信号ならそれほど急ぐことは無いか……でも一光年先で電波の観測はやっておくか。」
「そうだな、罠の可能性も考慮できるから凡その位置を知っておくのも悪くない。」
―――――――――――――――――――――
流彗星号は一光年のショートジャンプを行い電波の観測を行った後、レルネー1へのロングジャンプを行った。
レルネー1の途中には小惑星地帯が幾つかあり、通常の宇宙船は小刻みにジャンプを行う。
流彗星号はその小惑星地帯を無視してジャンプを行えるので最大距離のロングジャンプが出来るのだ。
サバーブはレルネー1への自動運転の航路をセットすると安堵の息を吐いた。
「よし、後はレルネー1への通常航行だけだな。連宋は周囲の警戒を頼む。リランドは……?」
「リランドなら下部船倉だよ。何か考えることがあるとか言っていたな……強化防護服関係じゃない?」
「強化防護服……リランドの商売道具だから当然か。何かいじっているのかもしれないな……少し様子を見てこよう。連宋、船橋を頼む。」
「アイアイサー!」
サバーブは連宋に手を挙げると下部船倉へ向かった。




