挿話:軍曹の日記その1
私の名はスマート・エイブラ。
こう見えてもイラメカ帝国の男爵、つまり貴族であり宇宙軍特殊部隊所属のスマート分隊を率いる隊長でもある。
そんな私がどういう訳か敵国である連合のステーションに軟禁されていた。
これもあの“連合の青い悪魔”と呼ばれるリランド・ダセルドに係わったためだ。思えば奴と係わったためこんな何もない辺境に来てしまったのだ。
思えば奴と初めてかかわったのは十年前、イラメカと連合の国境にあるアーマメント星系の惑星バシネットが最初だ。
惑星バシネットは異星人の遺跡が出土する特殊鉱山惑星の一つである。その時の私は鉱山の一つに赴任した新米将校の一人だった。
国境地帯なので常に緊張感……は全くなく、実に緩みきった軍隊だった。
そんな軍隊だから連合に急襲された時は全く対処できなかった。
それにあの青い悪魔が衛星軌道上から強化防護服単身で乗り込んでくるとは誰も予想していなかったはずだ。
だが、緩みきった軍隊とはいえ防御をしなかったわけでは無い。衛星軌道上から落ちてくる奴を銃弾の雨で迎え討とうとしたのだ。
しかし、あの青い悪魔は銃弾の雨を蝶が舞うようにヒラリヒラリと躱しながら我々に手痛い砲撃を繰り出した。そして奴は選りにも選って我々のど真ん中に着地したのだ。その上、着地時に周りを取り囲まれていても平然と武器を構え我々を打倒していった。
一方我々の部隊は同士討ちを恐れて(決してあの青い悪魔を恐れていたわけではない!)攻撃を躊躇していたのは事実だ。
奴はあっという間に我々の部隊のど真ん中に橋頭堡を確保してしまった。
橋頭堡を確保したことで連合の後続部隊が雪崩を打つ様に降下し我々の部隊はその場を撤退せざるを得なくなった。結果、我々の部隊でだけでなくイラメカ軍全体がバシネットだけでなくアーマメント星系から撤退することになる。
問題はその後だ。
当然撤退の責任を取らされる者が必要になる。それが私の部隊だった。
本来はもっと上の者が責任を取らなくてはならないのだがアーマメント星系に赴任していたトップの将校は上級貴族だったらしく責任を取らされることはなかった。その代わり下級貴族で生き残った私に白羽の矢が立ってしまったのだ。
幸い死刑は免れたが、二階級降格の上辺境の惑星へ左遷となった。
左遷された先の辺境の先であの青い悪魔、リランド・ダセルド(名前と顔はこの時に知った)の話を聞くことが出来た。
なんでも、惑星バシネットの住民に乱暴狼藉を働いた連中を全員二階級特進にしたそうだ。問題はその連中が軍上層部の子息が多かったということだった。
奴を罰しようにも子供の犯した犯罪が明るみに出てしまう。その為、軍上層部の連中は奴をバシネット攻略の報奨として准将にした。そして辺境の惑星へ左遷としたのだ。
奴の話を聞いて私は大いに溜飲を下げたものだった。しかし溜飲を下げたことが悪かったのだろうか?
その後も辺境の惑星を転々とし終にはなにも無い辺境に回された。
やっている事は特殊部隊での通商破壊とは名ばかりの海賊行為。その結果が今の私に繋がるのだった。




