特別ボーナス
レルネー1の港湾事務所に自称大尉の海賊スマートを突き出したサバーブ達は宇宙船ヴィーナス号の発着場に来ていた。
スマート大尉を船室に放り込んだ後、ジャンプドライブの点検を行ったが何も異常は確認できなかった。その為、再びジャンプを行ったのだ。
そのおかげか予定よりも早くレルネー1に帰りつくことが出来たのだ。
「サバーブ君、リランド君、連宋君にはお世話になったね。ありがとう。」
黒人の美青年がサバーブ達三人に深々とお辞儀をする。サバーブは同じ様にお辞儀をし、握手を求めて手を出した。
「ずいぶん早い出立ですね。ミカエルさんはこれからどうするのですか?」
サバーブと大きく握手をしながらミカエルは答える。
「今月末に地球でオーディションがあるのですよ。それに間に合わせるためにはこの船、ヴィーナス号に乗らなければならない。次のオーディションは一年後だしね。」
「そうなのか。それでは仕方がないですね。ミカエルさんならきっと合格するよ。」
ミカエルとの別れを惜しんでいると港でアナウンスが鳴り響く。
<ヴィーナス号へご乗船のお客様に申し上げます。ヴィーナス号はもう間もなく乗船の締め切りをいたします。乗船なされるお客様はお急ぎください。>
「もう乗船時間だ。みんなも気をつけて。協会への報告は先ほど私が端末で済ませておいた。ボーナスも弾んでおいたよ。ぜひ受け取ってくれたまえ。」
「ボーナスですか……それはありがたい。我々もいろいろと必要なものが多いので。それでは御気をつけて!」
「ありがとう!必ず合格してみせるよ!」
ミカエルはそう言うとサバーブ達に大きく手を振りヴィーナス号の搭乗口へ向かって行った。
しばらくするとミカエルが向かった搭乗口が閉められヴィーナス号へ接続していたドッキングベイが切り離される。
サバーブ達はゆっくりレルネー1を離れるヴィーナス号の姿をしばらく見続けていた。
小さくなってゆくヴィーナス号の姿を見てサバーブはぽつりとつぶやく。
「行ってしまったな。」
「そうだな。俺たちの初依頼も協会で報酬を受け取れば終了だ。」
リランドの言葉を聞いて連宋は大きく伸びをする。
「ふー。わしは疲れたよ。次の依頼は一月後ぐらいがいいなぁ。」
「私もしばらく休むか。依頼料の額を考えるとそのぐらいの余裕はありそうだ。お、そう言えばミカエルさんはボーナスとか言っていたな。何だろう?実に楽しみだ。」
ボーナスの話になりリランドと連宋は目を輝かせる。三人はボーナスについて目を輝かせながら想像を言い合い協会のビルへ向かうのであった。
しかし、その三人の目の輝きが無くなることになるとはこの時は予想もしていなかった。
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協会の建物に入りレイチェルが座る窓口へ急ぐ。
やはりと言うか案の定、窓口に一番乗りをしたのはサバーブであった。
「やぁ、レイチェル嬢。今日もお美しい。」
「リランドさんやサバーブさん、連宋さんですね。依頼達成の報告が上がっています。ご苦労様でした。報酬は各自登録された口座に振り込まれております。」
口座に振り込まれていると聞きサバーブ達は慌てて自分の口座の金額を確認する。
「?契約よりも少し多いな……一割ぐらいだが、これがボーナスか?」
「うーん。ボーナスと言うには微妙な線だが……。」
「わしはボーナスが貰えるだけでもありがたいよ。」
三者三様の感想を言うが、サバーブ達の発言を聞きレイチェルが首を傾げる。
「依頼料が増えているのは予定よりも早く終わったことによるボーナスで、特別ボーナスは別にありますよ?」
「「「特別ボーナスが別にある?」」」
三人が異口同音に疑問を口にしてレイチェルの方へ顔を向けた。
「ミカエルさんの特別ボーナスはミカエルさん所属のブラジオン型輸送船、登録名:流彗星号の権利です。船の登録者は空白のままですので三人の誰にするのか決めてください。」
「……」
「……」
「……」
「「「何だってっ!!」」」
スタートレーダー協会のビルに三人の声が大きく響いた。
―――――――――――――――――――――
サバーブ達三人が協会のビルで驚きの声を上げていた頃、ティフォン星系の外周部にある小惑星帯近くに軽巡洋艦が一隻停泊していた。
その軽巡洋艦の中で一人の男が吉報を今か今かと待っていた。
「輸送艦を拿捕した連中はまだ帰らないのか?」
「はい。何分空間戦闘に不慣れな連中を鍛える目的もありましたので時間はかかると思われます。」
「だがそれにしても遅すぎないか?もう出て行って二日は経つぞ?」
「何も連絡がないのは無事に輸送船を拿捕したのではないかと……。」
「ふむ、輸送艦に乗っているのはせいぜい五人。その内、戦闘が出来るのが一人か二人。我々は八機、そもそも相手にならないか。それに何か問題があっても八機が一度に全滅する事はあるまい。その様な事態になる前に何らかの連絡をよこすはずだ。」
「では現状はどうしましょうか?」
「ふむ。もう二三日待機だ。」
彼らが部隊の全滅に気が付くのにあと三日……。




