蝶の様に舞い蜂の様に刺す
突然の攻撃を受け海賊たちは浮足立っていた。
「どこだ!どこから来る!ジャミングはこの為だったのかっ!」
スマートは攻撃が来た方向に顔を向けて目を凝らすが目には暗い宇宙空間が映るだけで何も見つけることは出来なかった。そうやっている内にまた一機、仲間が撃墜される。
「う、うわぁぁぁ!冗談じゃねぇ!こんな所で死んでたまるか!!」
錯乱した一機がスラスター全開でその場から離脱しようとする。しかしスラスターの光はリランドに次の目標を知らせるだけの物になった。
光が離脱した強化防護服を貫き爆光に変える。
「下からか!!」
スマートが手に持つレーザー銃から光がほとばしり先ほど攻撃を行ったと思われる場所を通り過ぎる。
しかし既にリランドはその場所にはいない。リランドは射撃と同時に方向転換のスラスターを吹かすことで一撃離脱を行っているのである。
上下左右に移動し砲撃を加える。
正に“蝶の様に舞い蜂の様に刺す“と言うのが相応しい強化防護服での機動であった。
(くそ、またやられたか……これで四機目だ。認識できていない分こちらが不利だ。散開しようにもスラスターの光を狙われる……この戦い方……連合の“青い悪魔”の様だ。いったいどうすれば……。)
その時スマートの強化防護服に爆散した仲間の強化防護服の破片が当たる。当たった破片はごく僅かスマートを動かした後、別の方角へ飛んで行った。
(……ニームの強化防護服の破片か……あんな物でも俺を少しは動かすのだな。……まてよ?)
スマートは傍にいたジェノバの強化防護服を押す。するとジェノバの強化防護服とスマートの強化防護服は丁度正反対の方へ動いて行った。
(これだ!)
「各自散開!二機一組になり押し合いその反動で散開しろ。決してスラスターは使うな!」
海賊たちはスマートの命令により各自押し合いその場から散らばってゆく。
(ん?さすがに対処されたか……。さてどうするか?)
リランドは手持ちの武器である荷電粒子砲を構えたまま静かに慣性のまま移動する。相手の位置が判らなくなったので手をこまねいていた。
そんな状況を覆したのが連宋である。
「動かなくなった連中を動かすにはと……。」
連宋は複数のドローンを遠隔操作し海賊たちに見えるように何度かスラスターを吹かせた。
「光だ!スラスターの光が見えたぞ!」
「また光った。あそこだ!あの辺りをめがけて集中射撃!」
隊長であるスマートの号令に呼応するかのように彼らが手に持つ光線騎兵銃が火を吹く。
しかし連続して繰り出される彼らの射撃でドローンが撃墜されることはなかった。
連宋はドローンを操り交互にスラスターを吹かせることで移動先を絞らせない。その為、海賊連中は明後日の方向への射撃を繰り返すだけだった。
最も、この様な小手先の技は正規軍人にいつまでも通用する手ではない。
ただ、目の前の連中は長年の海賊家業のため軍人としての質がかなり低下していた。抵抗の少ない商船や武装の低い海賊を相手にするといった軍人にしては生ぬるい生活がそうさせたのだ。
光線騎兵銃を無駄にそして派手に撃った代償はすぐに払わされる。乱射している時に後ろから一機が撃墜された。
「後ろだと!そうか!複数の敵がいるのか!それに敵は射撃と同時に動いている!各自周囲を警戒!」
残った三機で背中合わせに円陣を組み周囲を警戒する。
しかし、時は既に遅かった。彼らの真上からリランドは持ち替えた光子騎兵銃を乱射しながら強化防護服のスラスター全開で接近する。
「今度は真上……」
その言葉を発した海賊は運悪く光子騎兵銃のエネルギーが強化防護服のエアタンクを貫通する。
「うわぁぁ!空気がっ!スマート軍曹!助けてください!スマート軍曹!」
猛烈な勢いで空気が噴出し海賊はどこともわからない方角へ錐揉み状態で飛んでゆく。
残った海賊たちは仲間の惨状を目の当たりにしながら迎撃体制を取ろうと光線騎兵銃を構える。
「遅い!」
リランドは一言そう言い切ると右腕の手首部分に装備された武装を一機の強化防護服へ向ける。
武装から特殊鋼製の杭が飛び出し強化防護服の頭部を破壊する。
電磁滑空杭
リランドの強化防護服に装備された接近戦用の武装である。電磁加速された特殊鋼製の杭は戦艦の装甲を貫くほどの威力がある代物である。
その杭に頭部を破壊された強化防護服は体を少し小刻みに震わせたかと思うとそのまま流れてゆく。
「うおおおおおおおお!よくもジェノバのスーツを!!」
「おっと、お前さんには少し聞きたいことがある。」
リランドは残った強化防護服を羽交い締めにする。
「連宋、手伝え!お客さんに聞きたいことがある。」
「OK-!でも七機も撃破か……流石リランドだねぇ。わしも飛び道具があれば……。わしの装備は支援用と近接用だし……。」
「おいおい、お前に飛び道具は必要ないだろう?それに射撃は得意だったか?五十m先に命中できるようになったのか?」
「五十mは当てる自信はないなぁ。」
「なら諦めろ。」
この日のリランドの戦果は強化防護服七機の撃墜と一機の捕縛。対してリランドや連宋の強化防護服は無傷。
圧倒的な戦果であった。




