流彗星号への帰還
三人に”誰だと”問われた美青年は意外な言葉を聞いた為なのか起き上がった姿勢のまま固まっている。
美青年がいるカプセルに入っていたのはミカエルなのだ。
冷静に考えてみると美青年はミカエルの若かりし姿なのだという事が三人には理解できた。
サバーブとリランドは恐るおそるカプセルに近づいてゆく。
「……ミカエルさん?」
サバーブにそう問われミカエルがやっと動き出す。
「自分、そんなに変わりましたか?」
「いやいや、もう別人みたいですよ。なぁ、リランド。」
「全くサバーブの言う通りだ。俺も別人かと思ったよ。」
「そうですか……でも皆さんはあまり変化が……。」
「私にもわからない。三人の中で私が一番若返りの効果が低いのは何故だろう?」
「なにか共通点でもあるのか?俺にはわからん。……どうした、連宋?」
ミカエルが座るカプセルの前でサバーブとリランドは立っていたが連宋は少し離れた所で立っていた。
「いやなに、ワシが見るに今の光景……腐女子が好きそうな光景だなと……。」
美青年をガタイの良中年オヤジとラテン系の中年オヤジ二人が取り囲む。普通だったらあまり問題にはならないが、今のサバーブはシャツとパンツだけ、リランドはパンイチ、ミカエルに至っては半裸(パンツ不明)である。
連宋の言葉を聞いたサバーブとリランドが弁明を始めた。
「いやいや連宋、それは偏見というものだよ。」
「そうだそうだ。それに腐女子が喜ぶとは限らないぞ。普通の光景だろう?」
先程までミカエルを取り囲んでいた二人だったが今度は連宋を取り囲んで弁明を繰り広げていた。
その二人にミカエルが声をかける。
「??腐女子という言葉の意味はわからないが、とりあえず服を着た方が良いでしょう。」
サバーブとリランドの二人は目から鱗が落ちたような表情で顔を見合わせる。
「それもそうだな、着替えるか。」
「あ、ああ……。」
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各自着替えた所で今後の方針についてサバーブが尋ねた。
「当初の目的である、”細胞活性化カプセル”の使用はできた。各自色々差はあるが良しとしよう。」
そう話すサバーブは少し残念そうな顔をした。
と言うのも再度使えばもう少し若返るかと考えてカプセルを使おうとしたのだが使用はできなかった。
どうやら一回使うと何らかの制限があるのか連続使用は出来ないようだ。
「当初、危惧されていた飢えは今の所おこっていない。しかし、今後起こらないとは限らない。」
サバーブの言葉にリランド、連宋、ミカエルは頷く。
「この部屋やここに来るまでの間に様々な物品、大小様々な大きさの錠剤を手に入れたので戦利品として十分だと思う。」
「ま、表面に書いてある文字は謎だが協会が高値で買い取ってくれるだろう。」
サバーブはリランドの言葉に頷き三人をぐるりと見渡す。
「飢餓の心配もある。ここは早く流彗星号に戻るべきだと考える。」
サバーブの言葉に反論するものは一人もいなかった。
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撤収すると決めると彼らの行動は早い。
ごく僅かな間に戦利品や持ってきた装備をドローンに載せ流彗星号へ向かう。途中の階は探索済みのため、探索の必要がないため戻る速度は早い。
彼らは一時間もかからずに流彗星号の前まで戻ってきた。
宇宙港のドックには六十日もほったらかしにしていたにもかかわらず今まで通りの姿の流彗星号が鎮座していた。
その姿を見たサバーブは安堵の表情を浮かべた。
「六十日も離れていたが何とも無い様だな。」
「サバーブわからないぞ?中は別だろう?男やもめに何とやらだ。」
リランドが言う事の話はわからないでもない。
宇宙船とは言え六十日間離れていたのだ。それに出発当時に片付け忘れたものがあるかもしれない。
「何にせよ、宇宙船内の片付けは帰り道にやればいいさ……。」
リランドにそう言いながら流彗星号の気密ドアを開けた。開いたドアの向こうには似て非なる別世界が広がっていた。
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