巨大地図の世界
流彗星号は巨大な輪の一つに近づいて行く。どうやらその場所が遺跡の港に当たる部分の様だ。既にサバーブは操縦桿から手を放し事の成り行きを見守る構えの様だ。
「さて鬼が出るか蛇が出るか……。」
「ワシ的にはどちらも出てきてほしくないね。」
「俺ならどちらでも倒してみせるよ。」
リランドはそう言って握りこぶしを前に突き出した。そんな軽口を交わす三人にミカエルは声をかけた。
「しかしこれはどの様な原理で動いているのかね?気体分子の振動?その様な物で宇宙船を動かせるとは到底信じられない。」
ミカエルの疑問にリランドと連宋の二人はサバーブの方へ顔を向けた。
「やれやれ。気体の振動つまり音による移動方法だ。最も人には聞こえない高い周波数の音、超音波を使った方法だよ。この方法は惑星に大型宇宙船が着陸する時に使われている方法だ。斥力フィールドごと超音波で囲むことで安全に移動できるようになっている。」
「そんな方法があるのか……惑星への着陸。俺にはあまり縁がないことだな。」
リランドが惑星に降りる方法のほとんどは衛星軌道上からのダイビングだ。それにエキドナ星系では一部の金持ち連中が地上を占拠しており、中産階級ともいえるリランド達には惑星上に降り立つこと自体に縁がない。
「私の場合はパイロットだったからね。いろいろな惑星に上に降り立ったことがあるので覚えていただけだよ。おっと、あれが港かな?結構整備されているようだぞ……。」
流彗星号はゆっくりと港の様な施設に近づいて行く。施設はつい最近建設されたばかりの様に真新しい。
その施設の両側にメルカトル図法のカラー地図を広げたような光景が目に入ってきた。
地図には海があり川があり山があり森があり様々な生態系があることが自然と理解できた。そのカラー地図が何枚も連なっている。地図の連なりは長く立ち上り遥か頭上の彼方まで続き端の位置を見ることは出来ない。
「連宋、あの地図のような四角い物の大きさはどのぐらいのサイズだ?」
「回転方向の長さが四万km、幅が二万km、地球を広げた形かな……。」
「結構広いな。海も見えるが深さはどのくらいあるんだろうか?山も見えるが火山はあるのだろうか?」
「海は地球型惑星の海よりも浅いみたいだ。火山はないね。火山の様に高い熱源の反応が無いから間違いない。」
「離れたところから見ると一繋の輪に見えたが地図の集まりとは……。この施設は港の他、地図同士の接合部の役目もあるようだ。劣化が見えない施設だな……材料が違うのだろうか?」
流彗星号は音もなく施設にあるU字型の構造物に誘導された。しかし誘導されたのは良いのだがU字型の少し手前で停止してしまった。流彗星号の挙動にサバーブは首を傾げた。
「停まった?いや何かが邪魔をして前に進めないのか?連宋?!」
サバーブに声をかけられるより前に連宋が動く。
「サバーブ、何らかの信号が出ている。港に船をつける時には斥力フィールドは展開しないはずだ。」
連宋の操作により斥力フィールドの展開が解かれる。解かれると同時に流彗星号はU字型構造物のUに部分にゆっくりと降りてゆく。
降りてゆくのと同時にUの部分からアームのようなものがいくつか迫り出し流彗星号を固定してゆく。
それに不安を覚えたリランドが疑問を挟む。
「これ……不味いんじゃないのか?」
「大丈夫だろう。壊すつもりならここに来る前に壊されている。それにここは宇宙船のドックの様だ。外からやってきた宇宙船はここに停泊するのだろう。」
サバーブの言う通りU字の底の部分に流彗星号は無事停泊した。この場所の宇宙船用ドックはフレキシブルな構造になっているらしく人類の宇宙船であるブラジオン型の宇宙船が問題なく停泊できることに一同は驚嘆するのであった。
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