内部侵入
流彗星号の目の前で白い光が大きくなってゆき、船の計器を調べている連宋の声が響く。
「壁面温度395K、斥力フィールド異常なし。流彗星号外装にも異常はありません。」
「よし、流彗星号、微速前進。」
流彗星号の操縦席に座るサバーブは航行用のエンジンのスロットルをゆっくりと上げる。それと同時に航行用のプラズマ推進器が低い唸り声をあげた。
「イオンサイクロトロン共鳴異常なし。プラズマ推進器異常なし、安定しています。」
流彗星号はゆっくりとした速度(宇宙船としては)で白い光の中へ進んでゆく。
サバーブは如何なる異常も見逃さないように目を凝らしメインモニターやサブモニターを見回す。
「斥力フィールドとダイソンスフィアとの境界面に接触まで三十秒、二十九、二十八、……。」
船橋の中は連宋のカウントダウンの声とプラズマ推進器の唸り声以外は何も聞こえない。
「十、九、八、七、六、五、四、三、二、一、境界面に接触します!」
連宋の声が響き、緊張する四人の額から汗がしたたり落ちる。流彗星号が接触面を通り過ぎる時に軽い衝撃が起こる。
「?流彗星号ダイソンスフィア内侵入。各部異常なし。」
「少し操縦桿が重いな……連宋、全方位観測開始。流彗星号に近づく物体はないか?」
「今の所近づく物は見当たらない。しかし内部はすこし明るいな。」
連宋の言う通り地球の公転軌道上、いわゆるハビタブルゾーンで受ける光の量よりも多くの光が流彗星号に当たっていた。
ダイソンスフィアの外殻はエネルギー吸収フィールドだが内部は吸収したエネルギーを放出する。そしてダイソンスフィアの中心にある恒星からのエネルギーを内部に反射するようにできている。その為、通常よりも“多くの光が当たる”=“明るくなっている”と言う事なのだ。
「観測結果をメインスクリーンに出すよ。」
連宋はナビゲーター席のパネルを操作し観測結果をメインスクリーンに映し出した。
ダイソンスフィアの上部から見える位置の観測結果だけだが、やはりサバーブの予測の通り内部に人工の構造物が存在する事が確認できた。
今の場所からは細い糸の様に見える構造物が恒星の周囲に張り巡らされているようだ。
その構造物の一部を拡大して見たリランドが感心したように声を出した。
「いくつもの帯の様になっているな。いわゆる“リングワールド“というやつか?サバーブ?」
「そうだな、まるではるか昔のSF小説で描写された姿とほとんど同じ様だ。」
だがその時、流彗星号に不自然な力が加わり一定の方向へ船体が移動し始めた。急な移動で舵を取られ船橋で操縦するサバーブが叫ぶ。
「何だ!!すごい力で引っ張られるぞ!!連宋!」
「観測データーに異常なし……待ってくれ!斥力フィールドに周囲に気体が存在する!気体の分子の振動で流彗星号がリングの一部に引き寄せられているんだ!」
気体の存在を伝えた連宋の言葉にリランドやサバーブは即座に反応した。
「高密度の粒子の振動だって?!ダイソンスフィアの中に空気でもあるのか?」
「空気だって!?それで先ほどから操縦桿が妙に重かったのか……。」
サバーブはそう言うと流彗星号が移動させられる方角を見る。
「それでサバーブどうする?それとも俺が強化防護服で出るか?空間機動用のアタッチメントは準備しているぞ。」
「いや、リランドそれは必要ないだろう。どうやら遺跡の港へ招待してくれている様だ。このまま遺跡の港へ接続する。」
遺跡からの歓迎なのか流彗星号は遺跡の港に引き寄せられてゆくのであった。




