ダイソンスフィア
少し興奮気味にサバーブはメインスクリーンに浮かび上がった巨大な黒い円の映像の前で解説を始めた。
「ダイソンスフィアは第二段階以上の宇宙文明圏には存在する建設物でその形は恒星を殻状に包む球体である。当初考えられていたのは無数の人工天体で恒星を囲むというものだったが、言葉のイメージで”恒星を殻状に包む球体”と定義された。」
リランドはメインスクリーンの黒い円の画面をじっと見る。
「恒星を包む球体か……殻状か俺にはわからないが確かに球体だな。」
「全てを殻で覆うには惑星の重力による干渉で外殻自体が歪む。その為、建設するなら二通りの方法、“惑星自体を外殻の材料として消費し惑星自体をなくすことで干渉を消す。”もしくは“殻自体を複数のパーツで構成しフレキシブルな物に変え歪に耐えることが出来る様にする。”の二種類が考えられてきた。しかしこれはハビタブルゾーン程もあるエネルギー吸収フィールドで全体を包み恒星のエネルギーを活用するダイソンスフィアだ。」
「サバーブ、ダイソンスフィアは超大型のコロニーの様な物だろう?それにエネルギー吸収フィールドはビームとかを防ぐ防御用のフィールドだ。それでどうやって恒星のエネルギーを活用するんだ?」
リランドは防御用のフィールドがなぜコロニーの外側に使えるのかもわからなかった。
「そもそもエネルギー吸収フィールドは吸収したエネルギーを相殺もしくは別方向へ拡散する事で高エネルギーを防ぐフィールドだ。このダイソンスフィアの場合、拡散する方向を中心に設定することでエネルギーを外に漏らさない様にできているのだろう。その結果、恒星のエネルギーを活用できるというわけだ。」
話の途中で連宋が首を傾げサバーブに尋ねた。
「それだとダイソンスフィア内部の温度が異常に高くならないか?フィールドの発生装置は内部にあるのだろう?」
「だから定期的に余剰エネルギーを放出している。白い光があっただろう、あれが余剰エネルギーの放出口だよ。」
「あれがそうか……サバーブはダイソンスフィアの中がどうなっていると考えている?」
「そうだな……。」
サバーブは顎に手を当て少し考え、自分のコンソールパネルからメインスクリーンに書き込んでゆく。
「まず中にはエネルギー吸収フィールドの発生装置がある。次にそれにエネルギーを供給する装置、恒星からエネルギーを回収する装置。装置は無限に動かせるものではないから、自分を含めてそれらの装置を修理する装置が考えられる。おそらくそれらの装置が複数あり恒星の周りを回っていると考えられる。当然、居住空間も中にあるはずだ。」
それまで”サバーブ君の言っていることがよく判らない”といった顔で首を傾げていたミカエルが目を輝かせる。
「それでは目的のカプセルは……。」
「ダイソンスフィアの内部の居住区に存在するでしょう。」
とサバーブは頷きながら答える。
「流彗星号で余剰エネルギーの放出口から内部に侵入しようと思います。放出口は二日間空いていました。次に開くのはおそらく二日後でしょう。」
「そんなところから侵入して大丈夫なのかね?」
「ダイソンスフィア内部に複数の装置があると考えられます。それらの装置を守る為に温度は高く設定されていないでしょう。ひょっとしたら居住区は遠心力で人工重力を発生させているのかもしれませんよ。」
サバーブの話を聞いて連宋は何か疑問がある様だった。
「でもサバーブ。居住区があると言ったけど本当にあるのか?そんなものは無くて、単なる融合炉だったと言う事は無いのか?」
連宋に疑問にサバーブは流彗星号の眼下にある惑星を指さす。
「あそこに生物の存在する惑星がある。それが答えだ。」
ダイソンスフィア
それはアメリカの宇宙物理学者であるフリーマン・ダイソンが提唱したことに由来する。
恒星の発する熱や光をすべて活用するための建設物の事である。




