その構造物は……
惑星を照らす光が消え辺りが暗闇に包まれたのはサバーブが計画してから予定より早い二日目の事だった。
サバーブは光が消えるとすぐに偵察用のドローンを光のあった方へ向かって打ち出した。打ち出したドローン全てに小型の発信器が付いており常に発信する様になっている。
連宋は流彗星号の前を進むドローンの飛行制御と管理を航宙席のモニターで行っていた。
「ドローン射出、通信正常。今のところ障害物は感知されていない。」
「よし、ドローンとの距離が四十万キロになれば流彗星号を発進させえる。リランド、連宋、準備は良いか?」
火器管制席からリランドが嬉々として返事をする。
「俺の方はいつでもいいぞ。流彗星号の速射光線砲はいつでも撃てる。」
「速射光線砲?おいおいリランド。いつ取り付けたんだ?」
「手の空いている時にちょっとな。部品は俺の光子騎兵銃からの流用だ。」
そう言うとリランドは親指を立ててニヤリとする。
「そ、そうか……。連宋、ドロ-ンの状態はどうか?」
「ドローン五機の状態に異常なし。リランドが強化防護服以外にも触っていたのは知っていたけど火器管制だったのか……おっと、距離は三十八万キロの……?通信が切れた?」
連宋は途中で言葉を止めたままモニターの画面を見つめる。
「どうした連宋?ドローンに何か問題が?」
「……距離が三十八万キロを示したと思ったら通信が途絶えた。原因は不明、全てのドローンからの通信が途絶えた。」
「「「何だって!!!」」」
連宋の言葉を聞いたサバーブ、リランド、ミカエルの三人は異口同音に驚きの声を上げた。
リランドは素早く火器管制席の照準器を起動させるとドローンが飛んだ方向へ向けた。
「……本当に何も見えないな。少しでも見えたなら形がわかるのだが……。いや待て!これは何だ?小さい物が途中で静止している。お、みんなちょっとこれを見てくれ。」
リランドは照準器で見た映像をメインスクリーンに映し出した。
「……これは……わしが飛ばしたドローンか!?無残な姿になっているじゃないか……。」
ドローンは連宋の言葉通り所々大きく凹んだ為か作業用アームなどが大破しひび割れていた。そのひび割れからなにかの赤の混じった白い結晶がはみ出している。
「この周りの何かの影響で大破したみたいだな。ピクリともしないぞ。それにこの結晶は何だ?」
「表面温度は3K以下か……おそらく空気が固まった物だろうね。ドローンの内部に残っていた船の空気がエネルギーを奪われて固まったのだろう。エネルギー吸収フィールドでもあるのかな……どう思うサバーブ?」
サバーブは連宋から尋ねられ少し考えこむ。
「フィールド……ではないな。たしかエネルギー吸収フィールドは触れた物体のエネルギーを奪い物体自身も破壊する。しかし、ここではドローンは残っている。何にしても問題はエネルギーを吸収する部分はどこまで広がっているのかだな……。これでは迂闊に近づけないぞ。」
「範囲か……確かに厄介だな。後ろが銀河の中心ならエネルギーを吸収されても大きさは判ったが後ろは真っ暗な暗黒空間だとなぁ……。」
サバーブはリランドの言葉に同意するように軽く頷くが何か釈然としない。確かに銀河系の外には暗黒空間が広がっている。だがそれだけだったか?
いや違う。
宇宙の観測では”宇宙マイクロ波背景放射”が必ず観測される。しかし目の前の物体はあらゆるエネルギーを吸収する。表面温度は3K以下、つまり宇宙マイクロ波背景放射さえ吸収してしまうのだ。
という事はマイクロ波が観測できなければその部分にはその構造物があると言う事だ。
「連宋、”宇宙マイクロ波背景放射”を調べてくれ。」
「星雲を?判った。メインスクリーンに出すよ。」
メインスクリーンには流彗星号に届く”宇宙マイクロ波背景放射”が映し出された。背景放射を表す暗い灰色のスクリーンの中心にぽっかりと黒い大きな穴が開いたような映像が表示される。
「……連宋、この黒い穴の様な物の半径は判るか?」
「一億五千万キロだね。」
「一億!1AUじゃないか!と言う事はこの黒い塊は……。」
驚き動きを止めるサバーブのこめかみから汗が流れる。同じように映像を見ていたミカエルがサバーブに声をかけた。
「サバーブ君、これはいったい何なのだね?」
「ミカエルさん……これはおそらく……。」
サバーブはごくりとつばを飲み込んだ。
「これはおそらく“ダイソンスフィア”です。」




