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タイタン条約

 流彗星号のメンバー全員は二つのサブモニターに映し出される光景に見入っていた。

 その光景を見て連宋が何か思いついたようだった。


「なぁ、サバーブ。この惑星の生物はここの固有種だよな?」


「そうだな。……私が記憶する限りこの様な生息環境は他に例が無い。当然そこに生息する生物は固有種であると考えられる。」


 サバーブの言葉を聞き連宋は何やら考え込む。


「捕獲するとしてもドローンを何台か使えば捕獲できるな。後は育成用のカプセル……いや、コンテナか?」


 連宋の言葉を聞いたリランドが問いただした。


「連宋、今捕獲と言わなかったか?あと育成カプセルとも聞こえたが?」


「ああ、ここの固有種を持ってゆけば結構な値段で売れると思って……。」


 連宋の言う事はもっともである。確かに、ここの星にしか生息していない生物、しかもこの星は訪れた人類は存在せず、訪れる事が困難な場所だ。

 その様な場所の生物は高額で取引されることは間違いのないように思える。


「そうか……だがそれは悪手だな。」


「悪手?何故に?」


「連宋、“星域生物保護条約”って知っているか?」


「星域生物保護?」


「別名、タイタン条約。希少な特定生物を保護する為の条約だ。俺も元港湾局勤めだからそのあたりの法律は詳しくないと仕事が出来ないわけだよ。まあ、毎年毎年違法生物の取り締まり月間があるから覚えたとも言うけどね……。」


 そういうとリランドはにっこり笑って連宋にくぎを刺した。


「と言うわけだから連宋、つまらないことで港湾の世話になるんじゃないぞ。」


 そう言われた連宋はがっくりと肩を落とした。彼からすると確実に儲かるように思えたのだろう。その連宋にサバーブが声をかける。


「連宋。今は惑星の観測だけに留めておけ。その映像だけでもそれなりの金額になるはずだぞ。」


「え、サバーブ、本当かい?」


 それなりの儲けが出ると聞きとたんに気を取り直す。その連宋にサバーブが少し前の事を尋ねた。


「そう言えば連宋、白い光が観測される前に頭を抱えていたがあれは何事だったのだ?すぐに収まったみたいだから問題が無いと判断したのだが……。」


「あれか……あれはちょっと変な電波を受け取ったからだよ。何か警告の様な感じだった。その直後にあの白い光だから……。」


 連宋の言葉を聞きサバーブは驚いたように立ち上がり連宋に詰め寄る。


「待て、待て、待て、待て、今何と言った?警告?その警告からどのぐらいの時間、警告を受けていたのだ?」


「はっきりと覚えていないなぁ……。そうだ!船内カメラの録画から割り出してみよう。ちょっと待ってくれ。」


 連宋はメインスクリーンに少し前の船内映像を呼び出した。


「確かサバーブが目標までの凡その位置を計算して……よし、ここだ。この時間だ。」


 スクリーンの映像は連宋が頭を抱えようとしている一瞬で止められた。


「実際はこれより少し前だから……。」


 連宋は少しずつ映像を逆再生してゆく。それを見たリランドが声を出す。


「お、今一瞬飛び上がったな。おそらく警告を受けた瞬間じゃないか?」


「……そうかもしれないな。で、この時間が警告を受けた瞬間と仮定すると白い光が見えた時に警告が止まったから……。」


 連宋は白い光が流彗星号で観測できた時間の映像を呼び出す。


「この時点でスクリーンに映っているから約三秒と言ったところだね。」


「三秒!」


 サバーブの驚きの言葉にリランドが首を傾げながら尋ねる。


「サバーブ、何か驚くことがあるのか?」


 サバーブは少し心を落ち着かせるように深呼吸するとリランドの方へ顔を向けた。


「警告……いや、これは異常な電磁波と言うべきか?それが発せられてから三秒後に警告が止まった事から何かの装置の起動によるものだと考えられる。」


 サバーブはスクリーンの白い光を指さす。


「この光の場所に何らかの装置、異星人の遺跡が存在すると考えられる。我々はついに未踏遺跡の近くまで来たんだよ。」

 星域生物保護条約

 太陽系連合が制定した星系における生物の保護条約である。

 宇宙史前の時代に存在したワシントン条約をモデルとして、特定星系内に存在する動植物の保護を目的とした条約である。

 宇宙で見つかる生物の多くは見つかった惑星に適合している生物が大部分を占めていてその惑星の環境でしか生存する事が出来ない。

 宇宙時代の初期にはその珍しさから乱獲され根絶してしまった生物や惑星開発が原因で惑星の環境が変わり惑星上から絶滅してしまった生物が存在した。

(注:絶滅は惑星上から消えてしまった事を指し、他の惑星上で生存が確認されている場合です。根絶はどこの惑星にも生存の痕跡が見つからない事を指します。)

 一度絶滅した生物は復活するのに数十年以上の月日が掛かり、根絶した生物はもはや復活は不可能であった。

 その事態を重く見た太陽系連合が中心となり星域固有の生物の輸出、輸入および取引に関する条約である。

 モデルとなったワシントン条約と同じように、根絶や絶滅のおそれのある異星の動植物を希少性に応じて3ランクに分類し、I、IIおよびIIIに分けて条約付随書にリストアップしている。

 現在では取引が厳密な管理の元、特定星域の生物の取引が可能となっており、条約に違反した業者は関連免許の剥奪および免許の習得が二十年不可と言う結構厳しい罰則になっている。しかも罰金は別にあり大抵はその生物の販売価格の倍の罰金が科せられる。

 この条約は最初に生物(原生生物)が根絶したタイタンを教訓としタイタン条約とも言われている。

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