惑星の夏
生み出された白い点はだんだんと大きくなりやがてスクリーン全体を真っ白に埋め尽くした処で光量が落ちた。どうやら露出オーバーになった為、流彗星号の量子コンピュータが自動的に光量を下げたようだ。
「おいサバーブこっちのスクリーンを見ろ!すごい光景だぞ!」
サブスクリーンを見ているリランドが興奮した様に声を上げた。何時の間に切り替えたのかカラー映像で惑星の様子が映し出されていた。
赤外線カメラのモノクロ映像では判らなかったが、キノコテーブルのような物体は黄緑色をしており、テーブルに日が当たると脚が見る見るうちに伸びてきる。その長さは目測で100mはありそうだ。
しかもそのテーブルは一つだけではなく、小さな大陸いっぱい……いや、それどころか海の中からもキノコテーブルが無数に出現し高く足を延ばしている。
今や惑星の日の当たる部分にはキノコテーブルが林の様に乱立していた。
空を飛ぶ四枚羽のクラリネットはベルの部分を広げ光の方へ向け空中で静止している。その姿を見たサバーブがぽつりと言った。
「まるでケツアルコアトルだな……。」
赤外線カメラでは白黒で判らなかったが、クラリネットの四倍羽は極彩色の細かい羽毛に覆われており緑色の胴体から生えるその姿は羽毛の生えた蛇の様に見えた。
鯖部のつぶやきをそっちのけでリランドが興奮したように声を張り上げる。
「おい見ろよ!あのテーブルの様な物が開いて行くぞ!」
先ほどまで高層ビルの様に高く足を延ばしていたテーブルキノコはそのテーブル部分を八等分し花が開くかのように大きく開いていっている。そして八等分され開かれた部分からさらに細かく極彩色の物が開くことでテーブルの大きさが四倍ほどの大きさになっていた。
「わしが見ている惑星の海の部分もすごいぞ!」
頭を抱えてうめき声をあげていた連宋も何事も無かったかの様に自分のモニターで惑星の様子を見ていた。連宋はもう一つのサブスクリーンに今まで見ていた映像を映し出した。
海では魚群の様な一団を長い触腕を持つ青緑色のエイの様な大型の生き物が追いかけている。エイの様な生き物は時々海面上をトビウオの様に飛んでいた。
浅瀬ではサンゴの様な物が色取り取りの花を開いているのが見える。
「うぉ!何だ?あれは!」
リランドが驚きのあまり席を立ちあがった。
彼が見つめるスクリーンにはテーブルキノコ周辺の地上の様子が映し出されている。テーブルキノコの花の間から漏れた光が地上を照らし、その場所の近辺にアザミの花の様な植物?が多く芽吹いていた。
その植物を食べる為か細長い六本の足と一対の細長い手を持った蜘蛛に似た生き物が手らしい物を器用に動かして食べているように思える。
テーブルキノコが無く日が直接当たる場所ではグネグネと動く緑の蔦の輪が広がりその節々に黄色や白の花の様な物を咲かせている。その花の様な物には小さな生き物が集まっている様だが遠すぎてよく判らない。
更に離れた所に目を向けると、馬ぐらいの大きさの六つ足の生き物たちが辺りを駆け回り、それを狙っているのか蔦の影から小型の生き物がゆっくりと近づいて行っている。
それは流彗星号に乗っている四人が初めて見る光景であった。
「……何だろう。自分は初めて見るが不思議な光景だ。」
「ミカエルさん。かく言う俺もこんな景色は見たことが無い。」
「私も……。」「わしも!」
ミカエルの言葉にリランドやサバーブ、連宋は同意する。
白い光に照らされた惑星は正に夏を迎えようとしているようだった。




