ジャンプ!
流彗星号が亜空間から出現した位置は未知の惑星の上空だった。その上、ジャンプの為に通常航行機関を休止していたため否応なしに惑星の重力に引かれ頭から惑星に墜落しつつある。
その時、惑星にレーザー光による反射スペクトルを分析していた連宋が叫ぶ。
「スペクトル分析は窒素七十二%、酸素二十%何だ?これは!大気があるぞ!!」
「大気だって!!最悪だ!この流彗星号に大気圏航行機能は無いぞ!」
サバーブが言った“大気圏航行機能“は船が大気のある惑星を航行する時に航行の補助をする機能で主に羽などを指す。
流彗星号が大気のある惑星を航行できないわけでは無い。斥力フィールドを使えば大気圏を航行する事は出来る。
しかし、その場合は宇宙を飛ぶ時よりもエネルギー消費が大きい上に速度はあまり出ない。
流彗星号の残りのエネルギー量を考えるとサバーブとしては取りたくない手段なのだ。
「何だってこんな所に惑星が……しかも地球サイズの惑星か。だが、突入角度が悪すぎるな……。」
流彗星号の操縦桿を握るサバーブが嘆く。
不本意にも惑星の上空に出現した事で流彗星号は惑星に落ちつつあるのだ。
しかもかなり深い角度での突入になり断熱圧縮の効果で通常では燃え尽きてしまう様な熱が斥力フィールドの向こうで渦巻いている。
「もう少し船首が上がれば……。」
「サバーブ!前部上方向の斥力フィールドの展開方向を少しだけずらすぞ!」
リランドが何かを思いついたのか斥力フィールドを操作する。
斥力フィールドは船を中心として進行方向に対して紡錘形に展開されている。リランドが展開方向をずらしたことで今までフィールドに押さえられていた大気の流れが変わる。
すると流彗星号はゆっくりと船首を上へ向け始めた。
「リランドいったいこれは?」
「……何、大気圏突入の際によく使う手だ。砲撃を回避する時や効果地点の修正にもよく使ったな。」
リランドが行ったのは空気圧の差によって動きをコントロールする方法だ。
大気圏突入は超高速により行われる。その際に斥力フィールドを張っているとフィールドの進行方向の空気はフィールドにより圧縮される。その状態のフィールドの展開方向をずらす事で空気の流れを変えた。
フィールドの展開方向が変わったことで下部の部分を流れる空気はより圧縮され遅くなりその部分の空気圧が上昇する。逆に上部の部分を流れる空気の圧力は低下し空気の速度は早くなる。
この空気の圧力の差が船を上昇させる力になったのだ。
「他にも突入の角度を間違えた時に使っていたな。ま、この事は秘密だ……。」
リランドはそう言うと口に人差し指を当てにやりと笑った。
「よし!そのまま突入角度を五度以下に!」
サバーブがリランドの言う通りに流彗星号の突入角度を五度以下にした。
すると流彗星号が何かに突入した様な振動を受け体が宙に浮くような衝撃にみまわられた。
「なんだ?今の?」
連宋が首を振り辺りに異常が無いか確認する。
「今の振動はこの船がジャンプした振動さ。突入角度が浅いと地球型惑星の空気に弾かれるのだよ。で、サバーブ。これからどうする?」
「そうだな……何とかここの危機を脱した。よし、流彗星号を惑星の周回軌道に入れよう。」
流彗星号は惑星への突入の危機を逃れ惑星の周回軌道に乗った。
サバーブが流彗星号を惑星の周回軌道に載せたのは理由がいくつかある。
一つはジャンプ出現地点が所定の位置よりも大きく異なった原因を調べる事である。
一つは周回軌道に乗ることでエネルギーの消費を抑える事。
一つは何故この惑星に大気があるのか調べる事である。
特にこの惑星に大気がある謎は解明するべき謎であるとサバーブは考えていた。
通常、宇宙で光も当たらない真っ暗な場所の温度は絶対零度に近くなる。と言う事は日も当たらない暗黒宇宙であるなら空気は凍るので地球型の天体はあり得ないからだ。
(この惑星に何かが有る。)
サバーブはそう確信していた。




