厄災来る
”イラメカの要塞が来る”
その事でオービタル・リングの中央司令室は浮き足立っていた。
「何故こんな時に!」
居合わせた多くの者が同じ様に思っていた。
それもそのはずである。
オービタル・リングに配属されている人々は軍人では無い。オービタル・リングを運営する組織の職員である。
そして今のオービタル・リングには防衛手段が無い。
様々な影響を防いできた斥力フィールドは事象の地平を超えた所でフィールドがゲートを造る様に変化し防衛能力を失っていた。
職員達が右往左往する中、司令室に駆けつけたオーガスタは開口一番、彼らを叱咤した。
「慌てるな!まずイラメカの要塞の軌道を確認する様に。対策はそれからだ。」
オーガスタに叱咤されたのが効いたのか職員達が素早く動き出す。各部署に通達しより詳しい情報を収集する。
そうしている内に軌道計算が終わったのか職員の一人から声が上がる。
「イラメカ要塞の軌道が判明しました。モニターに出します。」
職員が素早く端末を操作すると、中央司令室のメインスクリーンにオービタル・リングに対するイラメカの要塞の軌道と様々なデーターが表示される。
どうやらイラメカの要塞はオービタル・リングの近くを通過するだけで衝突する軌道には無い様だ。
その表示されたデーターを見たオーガスタは腕を組み考え込む。
(衝突する軌道には無いか……。進行方向にも変化間見られない。エネルギーが無いのか、駆動系が失われているのか……それとも人員が居ないのか……。)
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オーガスタは知らなかった。イラメカの要塞は流彗星号が内部で砲撃戦を行った影響でエネルギー部パンと壊滅的なダメージを受けていて砲撃や移動もままならない状態であったのだ。
しかし、ダメージを受けたのは要塞のエネルギープラントであり、要塞内部にはまだ行動可能な軽巡洋艦”アギオス”が一隻残っていた。
イラメカ皇帝、アイリーン一世はその船に乗りオービタル・リングを占拠する為に虎視眈々とチャンスを窺っていたのである。
「……オービタル・リングからの攻撃は無い……か。周辺に出撃する艦艇は存在するか?」
「ありません。先ほどオービタル・リングの船渠を観測した所、強襲揚陸艦が一隻あるだけで迎撃用の艦船は見当たりません。」
「強襲揚陸艦?」
「強襲揚陸艦”ドラゴンフライ”、プラネットダイバー用の船、わが帝国との戦いにおいて必要ない為こちらへ回されたようです。撃沈しますか?」
部下からの問いかけにアイリーンはにこやかに微笑む。
「ふふふふふ、丁度良い。この船を撃沈すればオービタル・リングも降伏勧告に応じる事でしょう。敵艦船を撃沈後、速やかに無条件降伏の勧告を行いなさい。」
「イエス・マム!砲撃用意!目標、連合軍強襲揚陸艦!撃てっ!」
アイリーンの号令の元、軽巡洋艦”アギオス”からプラズマの光りが強襲揚陸艦”ドラゴンフライ”に襲いかかる。その光りは瞬く間に”ドラゴンフライ”を引き裂き爆発させ宇宙の藻屑に変えた。
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”ドラゴンフライ”が爆発した光りは司令室からも見えるぐらいの大きな光りであった。
「係留中の強襲揚陸艦”ドラゴンフライ”爆発、イラメカの軽巡洋艦”アギオス”です!」
オービタル・リングに接近する要塞の影からイラメカの軽巡洋艦”アギオス”がゆっくりと姿を現す。
姿を現した”アギオス”の砲塔は全てオービタル・リングの司令室に向けられていた。
「博士!敵艦からの無条件降伏の勧告です!」
職員の一人が叫びオーガスタの方へ顔を向けた。
「……くっ!降伏するしか無いのか……。」
オーガスタは額に皺を寄せ考え込む。イラメカの降伏勧告を受けるのは容易い。しかし、受けたからと言ってオービタル・リングに避難している人々が無事であるとは限らない。相手は無条件で降伏せよと言っているのだ。
考え込むオーガスタに声を掛ける数人の人影があった。
「奴らの対処は俺たちに任せてもらおうか。」
その人影達は皆灰銀の金属の外見で中には目がある部分が丸いセンサーになっている者もいた。
「君たちは?それにその姿は……。」
彼らの中の一人が前に進み出る。どうやら彼がリーダーの様だ。
「俺は連合軍強襲揚陸部隊の灰色狼所属、マルス・アークライト中佐だ。休みで船を降りていたらイラメカのクソッタレどもに船をやられた。その敵を是非討たせて欲しい。」
先ほど撃沈された強襲揚陸艦は彼らの船だった様だ。
「……敵討ちか……。」
「ああ、船には俺たちの仲間も居た。それにこの間配属されたばかりの新兵も……。」
マルスの言葉に周囲の連中も黙って頷く。
「なるほど、理解した。しかし、君たちに武装はあるのか?」
オーガスタの疑問を聞きマルスはニヤリと笑う。
「俺たちは強襲揚陸部隊の灰色狼。体の大半は機械化された者だ。」
そう言うと灰色狼の各は体の一部分を武器に変形させた。




