エピローグ その1
流彗星号改(仮称)の機能をちょっと変更。
後々困る様な気がするため。
ブラックホールの重力を振り切り着陸艇は進む。
その操縦席ではサバーブ、リランド、連宋の三人は暗い表情のまま項垂れていて、さながらお通夜お様な雰囲気であった。
「……そろそろ太陽系外周部だよ。」
力なく報告する連宋にサバーブやリランドは無言で頷く。二人の様子を見た連宋は何かを思い出したかの様にぽつりと呟く。
「……なぁ、俺たちが流彗星号に乗って何年だ?サバーブ?」
「四年?……いや三年と少しか……。」
「そうか、三年ぐらいしか経ってないのか……もっと長くから乗っていた様な気がしたが。なぁ、リランド。」
「……三年ぐらいか……そうだよな。最初はブラジオン型だった……それが魔改造されて……。もうあんな船には乗れない気がする……。」
リランドはそう言うと肩を落として顔を伏せる。そんなリランドを見て連宋が何か良い考えを思いつく。
「流彗星号をコピーした船があるじゃ無いか、わしらの会社には?」
しかし、リランドだけで無くサバーブも連宋の意見を否定する様に首を振った。
「コピー船か……駄目だな。」
「ああ、私から見てもあの船は駄目だ。その理由は連宋、君もわかっているはずだ。」
「……コピー船だから少し能力が落ちるが……。」
連宋の言葉にリランドが顔を上げる。
「少しじゃない。二割も落ちれば少しじゃない!」
リランドの意見にサバーブも頷く。
「そうだな……速度も二割減だしな。」
「……二割減か……一体何故そんなに落ちているのだ?」
連宋の疑問にサバーブが答える。
「設計図が同じでも材料の精度が数段落ちるからだね。」
「?」
「ネジの一本、鋼材の一つにも精度があって、それが少しずつ落ちる。それらが積み重なって全体の能力が落ちるんだ。」
「何か昔聞いたN国製品の話みたいだな……。全ての部品の精度が良いから製品自体の質も良くなっていると言う……。コピー船はコピー品を造っていたC国製品か……。」
その例えを聞いたサバーブが頷いて肯定する。
「そうだ。それと同じ事が流彗星号とコピー船という事だ。」
「そうか……でもN国製品の話には続きがあって、製品ブランドに目をつけたC国人がN国で製品を作ってN国製品として売った”ナンチャッテN国製品”が数多くでたらしい。質はC国製品の。」
「ああ、それはトップの考え方が”良い物を安く”ではなく”儲けられる物”の違いからくる物だな。まあ、それは置いておいて、あれらの船の船長は決まっている。それを横から取り上げるのは……。」
「会社としては駄目だな……。」
「うむ。」
三人は同時に落胆のため息を吐くと肩を落とした。
そんな落胆する三人に着陸艇のAIである”シルビィ”が声を掛ける。
「そんなあなた方に朗報です。お迎えが来ましたよ。」
迎えが来たと聞き連宋はレーダーやモニターを注視する。
「迎え?……レーダーにも目視にも何も映らないが?まさか次元潜航!」
「そんな機能はありません。光学迷彩ですよ、光学迷彩。斥力フィールドの応用でレーダー波を返さない様にしているのですよ。」
会話を聞いていたリランドが首を傾げる。
「光学迷彩?そんな物が流彗星号に付いていたか?」
「改なのだから当然です。……ほら、接続しますよ。」
シルビイの言葉が済むや否や宇宙空間が割れカーゴベイの様な物から着陸艇回収用のアームが伸びる。
「「「!」」」
サバーブ達三人を乗せた着陸艇を回収すると割れた宇宙空間は元に戻り静寂だけが後に残った。
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着陸艇を降りたサバーブ達はシルビィの案内で船橋に来ていた。
船橋は広くなっており座席の数が増えていたが基本的な配列は流彗星号と全く同じであった。
サバーブ達三人が流彗星号と同じ位置にある座席に着くとメインモニターに映像が映し出される。
「ようこそ、流彗星号改(仮称)へ。私はこの船のAI、シルビィ・デキマ。今後ともよろしく。」
「シルビィ・10番目だって?」
驚きの声を上げたサバーブによると流彗星号改(仮称)のAIはシルビィ10番目のコピー人格らしい。
そのサバーブの言葉にリランドは首を傾げる。
「?この船が10番目だとすると他の番号は?」
「0番目がシルビィ・プロプリウス。これは本社にある生体端末と直結している物です。シルビィ・ウーナ、クインクエは1号艇。ドゥアエ、ヘクスは二号艇、トリア、セプテムが三号艇。オクトーは流彗星号の着陸艇。クワットゥ、ノウェムがオリジンの代わりに流彗星号に配属されています。」
「……何故ラテン語なのかは疑問があるが……多くの人格がある事は判った。」
サバーブは大きく息を吐くとリランドや連宋と目を合わせた。
「とりあえずこの新型船である流彗星号改(仮称)の試運転と行こうか?帰りがてら?」
「「了解!」」
かくして彼らの活躍はまだ続くのである。




