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三匹が宇宙をゆく!ーおっさんの悠々自適なセカンドライフだったと思うのだが何か違う気がする。ー  作者: 士口 十介
おっさんたちは太陽が消える日を迎える

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たった一つの冴えたやり方

 流彗星号の船橋ブリッジに白い霧の様な物が広がる。広がるそれを見てサバーブが首を傾げる。


「何だ?これは……ちょっとピリピリする。ビィ、これは何だ?」


「わ、判りません。……通気ダクトの中に異物か混入したようです。」


「異物?何だってそんな物が?」


「恐らくエンジンを切り離しパージした際、通気ダクトに何かが紛れ込んだのかと?」


「あれが原因か……。」


 サバーブの隣の席ではリランドが目を真っ赤にし、涙を止めどなく流す。連宋は目を赤くしているだけでリランドよりも少しましな状態の様にも見えた。


「目が痛ぇ……何だ?これは催涙ガスか?」


「……何だろう?目がしょぼしょぼする。この霧を吸っても大丈夫か?」


 シルビィは連宋の問いに素っ気なく答えた。


「ただ今分析中の為、人体に対する影響は不明です。心配でしたら宇宙服に着替えればよろしいかと?」


 ビィの提案を聞き三人は大きく頷く。


「涙が止まらないし……そうするか。」

「それが一番安全だとわしは思う。」

「……ビィ、宇宙服を出してくれ。」


「宇宙服?宇宙服は船橋ブリッジに常備していませんよ?」


「「「え?常備していない?」」」


 シルビィの答えに三人が異口同音に驚きの声を上げた。


「備え付けの予備はカークランド提督達に提供して以降補充していません。流彗星号の船橋ブリッジで宇宙服が必要な状態になるとは考えられなかったですから……今この船に宇宙服があるのは格納庫です。すぐに取り出せるのは着陸艇の中の分ですね。」


「着陸艇の中か……。ビィ、操縦を頼む。」


「了解しました。以降の流彗星号の全て・・の操作は私が受け持ちます。」


 サバーブは片手を上げて答えると操縦席を離れ船橋ブリッジを後にする。その後ろを他の二人、リランドと連宋も慌てて追いかけた。


 ---------------


 格納庫内にある着陸艇ではサバーブ達三人が宇宙服に着替えていた。涙の止まったリランドが一息つく。


「やれやれひどい目に遭った。催涙ガスか何かな?あれは……。」


「わしはましだったからそれほどでもない。……そう言えばサバーブはなんともなかったのか?」


「いや、私には特に影響は……。しかし、考えてみるとおかしな事だ。」


 サバーブの言葉にリランドと連宋はサバーブへ顔を向ける。


船橋ブリッジに宇宙服が無い事も、謎の霧が出てきた事もおかしな事だがそれよりももっとおかしな事がある。」


「「もっとおかしな事?」」


 サバーブは二人の顔を見て頷く。


異常事態おかしなことが起きているのにそれに対して私達の誰一人として何の疑問も持たなかった事だ。霧に催涙効果以外に思考力を低下させる効果があるのでは無いか?」


「「あ!」」


 実際、サバーブ達は異常事態にもかかわらずシルビィの提案されるまま行動していた。


「……正解です。」


 モニターからシルビィの声と映像が流れた。それと同時に着陸艇のあちらこちらから何かが閉まる音が聞こえた。


「何!閉じ込められた!?どう言う事だ!」


 リランドがモニター越しに怒鳴りつける。


「どう言う事も無いも、これが一番正しい方法。オールドデーター風に言うと”たった一つの冴えたやり方”という事ですね。恒星に飛び込むかブラックホールに飛び込むかたいした差ではありません。」


 シルビィの言葉と同時に何かが作動する大きな音が聞こえ、着陸艇が揺れる。着陸艇の揺れがゆっくりと収まるのと同様に音も徐々に聞こえなくなった。


「音が消えた……。ビィ、格納庫のハッチを開いたな?」


 サバーブがモニターに映るシルビィに詰め寄る。


「ええ、その通りです。これより太陽系外周部に向けて着陸艇を打ち出します。着陸艇の斥力フィールドも重力子を遮断する為、十時間もすれば連合軍と合流できるでしょう。あなた方には操縦席に座りシートベルトで固定する事を推奨します。」


 モニターの向こうのシルビィはにこやかな顔で答えた。


「着陸艇を打ち出す?それをすれば流彗星号はどうなる?」


「流彗星号は反動でブラックホールに突入する事になるでしょう。」


 “残念ですが“とシルビィは呟く。サバーブはそのシルビィに尋ねた。


「……他に方法は無いのか?例えば逆なら……着陸艇をブラックホールに打ち出しその反動を使えば?着陸艇だけでは無い他の機材も使えば……。」


「全てを使った場合だと帰還が五十年になるぐらいですね。」


 シルビィの言葉を聞きサバーブは長い溜息を漏らした。


「言ってはいませんでしたが、我々の使命の一つに生物の保護があります。当然この選択をするのは正しい行動になります。」


「……そうか。」


 他に打開策が無い事に気がついたのかサバーブ達三人は肩を落とした。

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