無双の三人
流彗星号のメインスクリーンにはブラックホールとイラメカの要塞が映し出されていた。
高重力の近くにある物体を見た場合、映像は歪んで見えるはずだがリランドの目にはごく普通の映像に見える。どうやらシルビィが画像補正を行っている様だ。
「先ずはおれの出番だな。」
リランドはそう言うと流彗星号の火器管制席に備え付けてある照準器をのぞき込む。
「ん?照準線が少し見難いな……輝度を落とすか……。だが一体何故?」
照準器から目を外すと大型モニターを見る。
大型モニターには流彗星号の外から見た周辺宙域の景色が映し出されており、ブラックホールとその降着円盤、そして連合艦隊の攻撃している姿が見えた。
「あれが原因か……。」
のぞき込んだ先は後ろがブラックホールであり、重力レンズの効果で本来見えるはずの無い連合艦隊が見える。どうやら総攻撃の光りが照準線を見難くしていた様だ。
リランドはその様子を見ながら首を傾げる。
「どう言う事だ、サバーブ。あの砲撃、一つも届いていない様に見えるが?」
「当然だろう。要塞がある宙域は超高重力地帯だ。当然時空が歪んで時間の流れが極端に遅くなっている。レーザー等を撃っても要塞に近づくにつれ時間の流れが遅くなる。それを外から見るとその場にとどまっている様に見えると言うことだ。」
「それがあの要塞の防御手段か……。」
「ああ、だが流彗星号はあの歪んだ時空の中でも時間の流れに影響されない。」
「なるほど。」
リランドは納得顔で頷くと照準器を再度のぞき込んだ。
「……サバーブ、機首をもう少し左に……3.2°ほど。」
サバーブが微妙な操作で流彗星号を動かすとリランドは火器管制用の引き金を一度引き照準器から顔を上げた。
「よし、偵察衛星の排除は終わったぞ。」
周囲の状況を観測していた連宋が感嘆の声を上げる。
「相変わらずとんでもない腕だな……一撃で三機撃墜か。」
「たまたま重なる軌道に居たからな。それに合わせて動かせるサバーブもたいした者だぞ?」
「射撃無双に操縦無双か……全くとんでもないな、お前ら二人は。」
((格闘無双が何を言ってやがる……。))
サバーブとリランドの二人は口には出さなかったが同じ様な感想をもった様だ。連宋は自らの頬を両手で叩き気合いを入れる。
「よし、次はわしとサバーブの番だな。サバーブ、航路予定の宙域図をそちらに送ったぞ。」
「OK、受け取った。流彗星号、突撃する!」
サバーブは流彗星号のエンジン出力のレバーを全開にした。
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イラメカの要塞シュトラールの艦橋内では兵士達の気が緩んでいた。
これも連合の攻撃は全く効果が無いことを知っているのとその効果の無い攻撃を見たイラメカ六世ことアイリーン一世が休憩の為に退出したからだ。
命が掛かった度重なる緊張に長時間晒されていた彼らを責めるのは酷という物かもしれない。しかし、この気の緩みが敵機の要塞への進出を許してしまったのだ。
「ん?今何か光ったか?」
「気のせいだろう……む!?」
兵士達が監視していた探査装置の映像が真っ白になる。
「反対側の監視装置もやられたな……どうする?」
「ほっとけほっとけ。どうせ連合の奴らはここまで来ることが出来ない。尻尾を巻いて逃げ出すほかは無いさ。」
しかしその兵士の舌の根が乾かない内に想定外の事が起こるとは想像もしていなかった。




