暗黒空間
暗黒空間
銀河系外周部にある人類未踏の空間である。辺り一面真っ暗で光の無い正に暗黒と言われる空間だ。
暗黒だからと言って何もないわけでは無い。
この空間には恒星が無いので光を発する物が皆無である。だから暗黒になっているだけなのだ。
この場所には惑星規模の天体も存在するのだが近くに恒星が無いと言う事は人が生活するために必要な光(人は日に当たらなければ精神的な病気になることがあるし気分が向上しにくい。)を得るために余分なエネルギーを使う必要があった。
暗黒空間と言う辺鄙な場所を開発しなくても恒星の近くに開発可能な惑星は数多に存在する。わざわざ労力を使うメリットはないのだ。
その為、暗黒空間には惑星規模の天体はあると判っていても開発されないのでこの宙域の地図は存在しない。
海賊たちを撒いた流彗星号は目標の地点まで約一光年の距離まで接近していた。彼らの前には暗黒空間と言われた未踏の宙域が広がる。
この宙域で船を進めるにはレーダー等の計器類が重要になってくる。その為に船を止め計測できる範囲での情報収集を行いいている様だ。
船橋のスクリーンに映し出された小惑星帯と言える岩石の集団を前にサバーブは呻く。
「……流石にデブリが多すぎる。この量のデブリを弾いていたらエネルギーがいくらあっても足りない。連宋、他の道はないのか?」
「他の道か……計器でわかる範囲はどこもかしこも小惑星だらけだ。小惑星帯よりも空隙が少ない。それにどこまで小惑星があるのか判らないぞ。」
小惑星帯同士の間はかなり距離があり、通常航行で進む場合は問題が無い。
だが流彗星号が最大速度で進む場合は話が変わってくる。通常航行では衝突しない小惑星でも最大速度だと接触する可能性がある上、残りの距離が一光年でもジャンプを行わなければならない。ジャンプを行い出現した場所が小惑星のすぐ近くだと大惨事待ったなしなのだ。
「仕方がない。あまりやりたくはないが回転軸上方向から侵入を試みよう。連宋、ジャンプ用意だ。」
「了解。ジャンプ座標を設定……。」
連宋は手慣れた調子でジャンプ座標を設定してゆく。
リランドも船に装備されている陽電子砲を準備し船の周辺の状況が表示されているモニターを注視していた。ジャンプにエネルギーを割くと武装に対して供給されるエネルギーが減る。その為、海賊船はジャンプ前の船を襲いかかることが多い。リランドはその海賊を警戒しているのである。
「座標設定完了。ジャンプドライブへのエネルギー供給正常。サバーブ、何時でも行けるぞ。」
「ジャンプ方向確認……良し!カウント開始、5,4,3,2,1、ジャンプ!」
サバーブの声とともに船外を映し出していた船橋の前面スクリーンの白い光点が青く線を引き、後面スクリーンの白い光点が赤い線を引く。流彗星号に軽い衝撃を受け亜空間に突入した。
ハイパワージャンプの距離により亜空間で航行する時間が変わる。亜空間での航行時間が長いほど長距離をジャンプできるが亜空間から船を守る斥力フィールドのエネルギー損耗率が等比級数的に跳ね上がる。
エネルギーの損耗を抑えるために短いジャンプを繰り返すほうが良いように思えるが、ジャンプは亜空間へ侵入する際、船体やジャンプドライブにダメージを与える。すると今度は船体やドライブの損耗率が等差級数的に上昇する。
以上のことから効率の良いジャンプは三光年から六光年の間という事になっている。
流彗星号はごく短い時間で通常空間に戻ってきた。ジャンプする距離は一光年に満たない距離のショートジャンプを行ったからだ。
「ジャンプ正常終了。船体に異常な……!」
連宋の報告の最中、不意に流彗星号の船体が何かに引きつけられた。
「船体下部に重力反応!小惑星?いや惑星だ!」
・宇宙での方位
宇宙では東西南北の方位はない。
この時代、宇宙での方向の標準は銀河の回転軸と回転方向が基準に設定されている。
回転軸の方向が上下方向であり、回転する銀河が反時計回り回っている事を観測できる位置が上、時計回りを観測できる位置が下とされている。
銀河の回転軸に近づく方向が内側、回転軸から離れる方向が外側、中心から外側を見た時の銀河の回転方向が左方向、その反対が右方向となっている。




