祈り
発進の命令が下りサバーブ達が行動を開始する。
彼らの動きは速い、成すべき事が既に頭に入っているからだ。
その彼らが流彗星号の船橋のドアを開くと管制室とのやり取りが船橋内を響き渡っていた。
どうやら流彗星号の留守を任されたシルビィが対応している様だ。
モニターに二十歳ぐらいの女性の黒髪のシルビィともう一人、男性の様な姿で短い黒髪のシルビィが映し出されその二人で対応している様だった。
「重力子砲への動力接続問題ありません。船橋での状況はいかがでしょうか?」
「こちら流彗星号船橋接続状況は良好です。すべて問題ありません。」
「流彗星号燃料補給完了しました。」
「了解。何時でも発進できる様、作業員を待避させてくれ。」
「作業員は既に待避している。何時でも発進可能だ。」
「了解した。船員が戻り次第、発進シークエンスに移行する。」
流彗星号も重力子砲の艤装をすでに終えサバーブ達が戻り次第発進できる体勢になっていた。
船橋に戻ってきたサバーブ達を見たシルビィ達が着席を促す。
「流彗星号の発進準備は完了しています。何時でも発進可能です。」
報告を受けたサバーブが首を傾げる。
「了解……で一体これは?君は誰だ?顔からするとシルビィ二号?」
「ああこれか。便宜上二人に見せかけているだけだ。私は幾つもの案件を同時に実行可能だが……。こうすれば情報伝達が淀みなく行う事が可能だ。」
少し精悍な顔つきのシルビィが答える。
「まぁ、味気ない画面より相手の顔が見えた方が良いのは間違いない。」
サバーブは自分の座席である操縦席に腰を下ろすと周囲を見廻した。
「各員準備はどうだ?」
「こちらリランド。火器管制異常なし。重力子砲の操作も良好。」
「こちら連宋。各種計器正常、斥力フィールド異常なし。」
サバーブも各種推進器の状態が正常である事を確認すると連宋の方へ顔を向けた。
「連宋、管制官へ発進許可を。」
「了解。こちら流彗星号、管制室発進許可を願います。」
「こちら管制室。流彗星号誘導の指示に従い1番の発進用ゲートへ向かってください。」
流彗星号は改造用に使用したドックをでると管制官に発進用ゲートへ誘導された。
「各計器正常、推進器へのエネルギー伝達異常なし。」
「流彗星号発進する!」
サバーブの号令と共に流彗星号は青白い光りをたなびかせながら発進した。
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流彗星号が無事発進したのを確認すると集められた連合軍の艦艇も太陽系へ向け発進する。
その様子を艦橋から見ていたカークランドは副官であるアム大佐に状況を尋ねた。
「各艦の連動状況はどうかね?」
「良好……とは一概に言えませんが、概ね計画の通りです。」
「ふむ。連合の艦艇が総攻撃を行っている反対側から流彗星号が浸入。そして要塞に重力子砲で大打撃を与える。」
「はい。その様になっております。」
「この艦隊の動きによって彼らがミッションをこなせるかが決まる。これは彼らの命運が決まるのと同じ事だな。私としても彼らの無事を祈らずにはいられないよ。」
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丁度同じ頃、サリーレ本社にサバーブ達の無事を祈る女性達が集まっていた。
「リランドも今頃発進した頃ね。シルビィも流彗星号が離れているので睡眠モード。こうして見ると普通の幼児。アリシアさんもそう思わない?」
「確かに……普通の幼児ですわね。生体端末でしたかしら?……でもキャサリンさんもレイチェルさんも付いていかなくて良かったのですか?私と違って宇宙船での活動には慣れているのでは?」
アリシアの言葉にキャサリンはため息を吐きながら応えた。
「慣れていても、流彗星号の正規の乗組員では無いからね……出来る事は限られるから足手まといにしかならないわ。」
「私も同じね。とは言ってもこの体ではついて行くのは無理ね。」
レイチェルは少し大きくなった下腹部をさすりながらそう答えた。
「……正規の乗組員で無いと何も出来ないのが現状ですね……。サバーブ様によると別の船の乗組員として登録中と言っていましたが……。」
「何にせよ今の私たちでは無事を祈るしか無いわね。」
そう話すキャサリンの言葉にアリシアとレイチェルの二人は同意する様に頷いた。




