情報開示
サバーブ達は流彗星号が重力子砲を取り付ける艤装作業をしている間、連合の旗艦”カスガ”の艦橋にいた。
これは連合軍に復帰したカークランド提督と今回の作戦についての詰め協議を行う為である。
艦橋に備え付けられている超大型パネルにはブラックホールや地球、イラメカの要塞が表示され、太陽系があった場所の周辺の重力分布が色分けされていた。
そのモニターの前で一人、参謀である女性士官のアム大佐が指示棒を手に持ち現状を説明していた。
「……この様にイラメカの要塞はブラックホールの周回軌道上にあります。要塞周辺の宙域は兆候重力宙域であり時間の流れが著しく変化します。要塞自体は軌道を任意で変える事が出来る様で要塞に対する攻撃は困難を極めます。」
士官の解説を聞いていた将校の一人が疑問を呈する。
「時間の流れが変化するのはどのぐらい変化するのか?」
「要塞周辺の宙域では一秒が三年です。従って、要塞に向けての攻撃は三年以上後にその場所を通過する事になります。」
「それでは当たらぬでは無いか!いっそのこと全体を網羅した飽和攻撃は?」
将官の言葉にアム大佐は少し首を傾げた。
「飽和攻撃でしょうか?確かに相手の斥力フィールドを破る為には必要な攻撃です。しかし現状だと範囲が広すぎるので実行は不可能です。」
「むぅ……。」
「では話を続けさせていただきます。」
アム大佐がモニターの方を向くと手に持った指示棒でモニターの画面をなぞるとイラメカの要塞に向かっての線が延びる。
「……この様に重力子砲を搭載した船、”流彗星号”で要塞宙域に突入、イラメカの要塞が周回軌道を維持する為に斥力フィールドの範囲外になっている部分を破壊します。」
「まて?幾つが疑問はあるが……そもそも要塞を攻撃するのに重力子砲とやらが必要なのか?」
「現時点で目標を完全に破壊できる兵器は重力子砲以外ありません。」
「そんなに凄い兵器なのか!ならばその兵器を使い我々も攻撃した方が……。」
将官の意見にアム大佐は首を横に振る。
「残念な事に重力子砲の射程距離は五kmしかありません。」
「五km?五万kmでは無くて?」
「はい。わずか五kmです。」
「それでは全く使えんではないか……。」
肩を落とす将官を横目にアム大佐は作戦の説明を続ける。
「周回軌道を維持している部分を破壊されたイラメカの要塞は周回軌道を維持する事が困難になる為、自動的にブラックホールから離れるもしくは突入する事となります。」
「なるほど、ブラックホールの周回軌道を離れた時が攻撃時だと言う事だな。」
「はい。イラメカの要塞が周回軌道から離れ、超高重力圏の外に到達した時に総攻撃を行えば要塞を破壊する事が可能だと愚考します。」
「……なるほど。確かに時間の影響が無ければそれは可能だな。だが少し待ってくれ……超高重力圏で重力子砲を発射するのは良い。だがそこまで行くのに重力の影響は受けないのか?たしか……”流彗星号”だったか?聞いた事の無い船だな……。」
アム大佐はモニターの画面を操作すると流彗星号の姿を映し出した。
「……これが”流彗星号”?形から見ると確かに速そうな船ではあるな?何処の所属かね?」
「流彗星号は民間の組織である株式会社サリーレの所属です。」
「サリーレ?ということは民間船では無いか!民間の船で今回の作戦を実行できるのか疑問だな。民間船を使うなどと一体誰の発案だ?」
将官の言葉に居合わせた他の将官も同意する様に頷く。その様子を見たサム大佐はカークランド提督の方へ顔を向けた。
「……流彗星号の使用を発案したのは私だ。」
「提督が?」
「そうだ。流彗星号は今回の作戦で十分にその役目を果たすと私は確信している。」
「しかし、民間の船ですよ?どうせなら連合軍の高速戦艦を使った方が……。」
「……高速戦艦では遅すぎる。」
「で、では高速巡洋艦……いやいっそのこと我が軍の最高速の船を!」
カークランドは将官言葉を聞いて笑みをこぼす。
「流彗星号は連合にあるどの船よりも速いのだよ。」
カークランドの言葉を聞き多くの将官が驚きの声を上げる。
「そんな馬鹿な!」
「何かの間違いでは?」
「そんな高速船が出来たなんて聞いた事が無い!」
将官達の納得できない言葉を聞きカークランドはサバーブ達の方を見た。カークランドの意図を察したのかサバーブ達は不本意ながら同意する様な態度を取る。
そのサバーブ達の態度を見てカークランドは二三度頷く。
「諸君の疑問はもっともな事だ。実際、連合内で造られた一番早い船は連合軍の高速船である。」
「「「「「「??????」」」」」」
カークランドは疑問符を浮かべる将官の顔を見廻す。
「流彗星号は使用可能な遺跡宇宙船なのだよ。」




