反撃の一手
スクリーンの中のオーガスタは自信ありげで不敵な態度を崩そうとしなかった。その自信ありげなオーガスタの姿を連宋は不思議に思えた。
「話からすると重力子砲で何かをするのだろうが当てても斥力フィールドに弾かれるだけじゃ無いのか?」
「連宋の言う通り新型の斥力フィールドは重力の干渉を防ぐ。なら重力子砲も防ぐはず。なのに重力子砲で攻撃するのか……?」
リランドはオーガスタの意図をつかめず首を捻る。当のオーガスタは悩む二人を見て顎に手を当ててできの悪い生徒を見る様な目で見守っている様だ。
その中でサバーブは何かに気がついたのか連宋の方に顔を向けた。
「……たしかイラメカの要塞はブラックホールの周回軌道にあったよな?連宋?」
「ああ、たしか公転時間が六十日だったはずだ。」
「六十日……水星に近い軌道か……かなりブラックホールに近いな、なるほど。」
サバーブの納得した様な声にリランドは疑問を投げかけた。
「水星の周回軌道だと何かあるのか?」
「そもそも周回軌道にいるとはどう言う事だ?」
「「??????」」
サバーブに質問を返されリランドと連宋の二人は見当が付かない様な表情を見せた。
「ブラックホールの周回軌道……つまりブラックホールの重力の影響を受けていると言う事だ。」
「え?それでは時間が遅れるとかの影響を受けるのでは?」
「おそらく要塞の一部が重力の影響を受けている。だから連中の要塞はブラックホールの周回軌道上に存在する事が出来るのだろう。微妙なバランスだな。」
サバーブはそう言うとメインスクリーンの方へ顔を向けた。
「ええ、正解ですね。連中は要塞の一部分を斥力フィールの範囲を動かす事で軌道を調整しています。ではその一部分に高重力がかかれば?」
オーガスタの言葉にサバーブとリランド、連宋の三人はお互いに顔を見合わせる。
「そうか!微妙なバランスで成り立っているのに予想よりも高重力がかかれば軌道がずれる。」
サバーブの言葉にリランドは大きく頷く。
「下手をするとブラックホールに落ちるな。」
連宋もサバーブやリランドの言葉に同意する。
「落ちなくても軌道修正には時間がかかる。その間は他の星系への攻撃は不可能だ。」
ここでサバーブは問題点に気がついた。
「だが待てよ?高重力の環境では時間の進み方が遅くなるはずだ。その遅い時間で目標への射撃は困難を極めるぞ……。リランドお前なら出来るか?」
「どうだろうな……?重力子砲の射程は5kmだろ。百万kmになるのは将来の話だったはず……難しいな……。」
「サバーブ、それより重力子砲を搭載可能な船というのはあるのか?」
するとメインスクリーンの中のオーガスタ博士はにこやかにその答えを言った。
「何も問題ない。君たちが……君たちの船、流彗星号ならば可能でしょう?違いますか?」
オーガスタの質問にサバーブ達はシルビィの方へ顔を向けた。
「この流彗星号に重力子砲の搭載は可能です。そして流彗星号の斥力フィールドで重力子を防ぐ事が可能、ですが重力子砲は後方のオケアヌス星系にあり、この位置からだと二日、往復で四日。改造の時間を考えると五日は必要としますね。」
無論これは何の障害もなく事が進んだ場合である。下手をすれば倍の日数が掛かるだろう。
「五日か……イラメカの次の砲撃まで約一週間。微妙なところですね。……たしか重力子砲がある星系に運送業者はいますね?その業者に運送を頼めば……。」
その言葉を聞いてリランドが納得したとばかりに手を打った。
「時間的に余裕が出来る!早速注文をするか……。」
するとサバーブが注文しようとするリランドの動きを静止する。
「待て、リランド。輸送先を中間地点にすれば輸送時間は更に半分になるぞ?」
「それは良いな……連宋、中間地点は何処になる?」
連宋は端末を操作すると現在位置とオケアヌス星系との中間地点を映し出した。
「丁度ポルック星系辺りが中間地点だね。貿易港があるみたいだよ。」
「OK。ではポルック星系のコロニーを輸送地点としよう。連宋、リバーヘッド重工業に購入の意思を……輸送業者に輸送の指示を頼む。」
「了解。他はどうする?」
「そうだな……カークランド提督には一言話を通した方が良いだろう。」
連宋はサバーブの言葉通りカークランド提督にも連絡を取るのであった。




