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三匹が宇宙をゆく!ーおっさんの悠々自適なセカンドライフだったと思うのだが何か違う気がする。ー  作者: 士口 十介
おっさんたちは太陽が消える日を迎える

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一騒ぎ

「流石は閣下。今までのイラメカ皇帝に出来なかった事をやってのけるとは……。歴代イラメカ皇帝以上の皇帝でございます。」


 取り巻きの一人がイラメカ六世に賞賛の声を上げる。


「歴代以上か……そうじゃ!イラメカと言うこの名……この名も考える時に来ているのかもしれぬ。」


「それは良い考えでございます。閣下は今まで出来なかった”連合の愚民どもに無慈悲な鉄槌を下す”と言う事が出来ました。名を改めるのは当然の事かと……。」


「ふむ。であるか……。」


 取り巻きの言葉にイラメカ六世は致死の光線に焼かれる惑星エドワードを想像して暗い愉悦に浸った。


(当然じゃ。この世の生きとし生けるもの全て予の為に存在する。予に逆らう者があってはならぬ。地球のあの女、オーガスタとやらもさぞ悔しがっているだろう……。)


 ---------------


 実際、イラメカ六世の想像した通りオーガスタは自分の判断の甘さを机にぶつけていた。


「あのババァ!狙うとしたらこちらだろうがっ!」


 オーガスタの怒りの鉄拳が叩きつけられた机は真ん中から二つに割れただの廃材となっていた。

 自ら出歩き様々な場所に出向く事の多いオーガスタ博士は引き締まった体をしている。彼女にとって机割る事は造作も無いようなことに思えた。

 廃材となった机を見た秘書のミュアは肩を落とす。


ですが博士、再生廃材からのリサイクルとは言え天然木の机は高いのですよ?」


「柔な机が悪いのだ……だがしかし、今の状況はあまり良くないな……。」


「そんなに状況が良くないのですか?」


「ああ、ここだけの話だが……攻撃された事で地球の公転速度が極わずかに落ちた。このままだと地球はブラックホールに落ちる。」


「……本当ですか?」


 ミュアの言葉を肯定する様にオーガスタは頷く。


「ええええええええええええええええ!!それは一大事じゃないですか!早くみんなに知らせて避難しないと!」


 慌てて飛び出そうとするミュアをオーガスタは取り押さえる。


「まて、慌てるな。あまり・・・良くないと言っただけだろう?」


あまり・・・じゃなくてと-ても・・・・ですよっ!ブラックホールに落ちたら地球なんかぺしゃんこですよっ!」


「それがそうでも無いんだな……。」


「?そうでも無い?」


 オーガスタは白衣のポケットからペンを取り出すとミュアの言葉を受けて廃材となった机の天板に幾つかの図形を書き始めた。


「……通常、ブラックホールに物質が落ちるとブラックホールを形成する材料になる。しかし現在の地球の様に防衛機構、斥力フィールドがある場合はそうはならない。重力波も防ぐ事が出来る様に出来ている。ただ……。」


「ただ?何か別の問題が……?」


 ミュアは口ごもったオーガスタを不安そうな表情で見た。


「……ブラックホールの大きさが地球サイズであると言う事と斥力フィールドの効果でブラックホール自体がワームホールの様になる。ただその場合は特異点が外に出現する事になるので時空が歪む事になる。」


「?」


「具体的には何処に繋がるか判らない一方通行のトンネルが出来てしまうと言う事だ。」


「……一方通行?」


「まぁ、ブラックホールの重力の逆らえるのなら戻る事が出来るけどね。」


「そうですか、戻ってこられる……って、逆らう事が出来なければ戻れないんでしょ!やっぱり一大事じゃないですか!」


「大丈夫、死なない限り何とかなるよ。」


「死なない限りって……。」


 オーガスタとミュアが騒いでいるとオーガスタの端末の呼び出し音が鳴り響いた。


「誰だ?……私だが何用か?」


『オーガスタ博士ですか!こちら第二管制室です。すぐこちらに来ていただけますか?協会役員の何人かが船を出航させようとしているのです。』


「おいおい、私は港湾局の職員じゃ無いぞ?」


『いえ、地球規模の斥力フィールドを張ったのはオーガスタ博士ですので……それにフィールドの一部解除ができるのは博士しかいないのですよ……。』


「一部解除?この状況で正気か?……仕方が無い。」


 ---------------


 オーガスタとミュアが第二管制室で見たのは管制官に詰め寄る役員の姿だった。


「ん?あの男、見覚えがあるな?」


「宇宙物理学研究所の役員でウォーカーさんですね。役員会議で何度か見ていますよ?」


「そうか?あまり見覚えがないな?」


 オーガスタはあまり人の顔を覚えない。彼女が覚えている人間は興味の対象か注意すべき対象だけである。

 ウォーカーという男は尊大な態度で管制官に声をかぎりに怒鳴っていた。


「このままでは我々は死ぬしか無い!だがアイリーン一世陛下は我々に温情をくださった。ここから脱出して要塞に向かうべきだ!」


「そうだ!そうだ!」


「全くもってその通りだ。」


 ウォーカーの取り巻きも異口同音に賛同していた。


「なぁ、ミュア。話からすると”アイリーン一世”と言うのは”イラメカ六世”の事だと思うが何時から名前が変わった?」


「変ですねぇ?」


「これは詳しく聞く必要があるな……。」


 そう言うとオーガスタとミュアはウォーカー達にゆっくりと近づいていった。

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