誤算
地球は攻撃を受けていた。
先ほどの攻撃が単なる試射であったかの様な激しい攻撃である。地球の軌道近くまで移動してきたイラメカの宇宙要塞シュトラールからも荷電粒子が何条もの束になって降り注ぐ。
しかし、どの攻撃も地球の防衛システムに阻まれ地球本体を攻撃するには至っていなかった。
シュトラールの司令室内でデモートは必死な形相でメインスクリーンを睨んでいた。
「逆方向から向かった突撃部隊はどうなっている!」
デモートは突撃部隊と称した宇宙要塞所属の宇宙艦隊を宇宙要塞とは逆方向から降着円盤を横切る形で進撃させていた。
宇宙要塞に収納されていた艦隊の多くは斥力フィールドの性能が低い。多くの艦が降着円盤からの電磁波により航行不能に陥った。中にはそのまま降着円盤へ落下し爆散する艦艇もあったのである。
当然のことながら突撃部隊は一隻も接近する事が出来ない状態であった。
「降着円盤からの電磁波に阻まれ、未だに連絡はありません。」
ブラックホール周辺を超高速で回転する降着円盤からは強力な電磁波が出る。その電磁波が艦艇の確認を困難な物にしていた。
(不味い、不味いぞ……このままでは前任者の二の舞になる。それだけはなんとしても阻止せねば……。)
そんな心情でメインスクリーンを睨むつけるデモートにイラメカ六世から声がかかる。
「元帥よ。攻めあぐねているようじゃな?」
「は、はっ!無礼な者に天誅を加えるべく攻撃しているのですが……。」
「……元帥よ、汝は疲れているようじゃな。」
「いいえ、私は……はっ!」
イラメカ六世の言葉を否定しようとするデモートの頭にひらめく物があった。
(まて、言葉を否定せず休憩すると言ってそのまま退出すれば前任者の様にならないのでは無いか?)
前任者はイラメカ六世の不興を買った為、イラメカ六世の護衛の手で強制的に宇宙要塞から退出させられたのであった。
「どうした?元帥?」
「いいえ……どうやら私は疲れている様です。休憩の為の退出許可を願います。」
「良いだろう。十分休むと良い。」
イラメカ六世が指を鳴らして合図を送ると護衛の将官二人がデモートの腕を掴むとそのまま抱え上げ退出していった。
ただ前任者と異なっていたのはデモートの場合、そのまま宇宙要塞から退出された訳では無く宇宙駆逐艦に乗せられ本国へ強制送還されたのである。
ただ後の事を考えるとデモートにとって幸運だったと言えた。
「やれやれ、誰も指揮を任せる事は出来ないか……。ならば予が指揮を執るしかないでは無いか。」
イラメカ六世は煩わしそうに呟くと将官の一人に命令を下した。
「シュトラール砲発射用意。目標バーナード星系、惑星エドワード。攻撃次第、地球へ通信を送れ。」
「通信内容は以下がいたしましょう?」
「そうじゃな……『汝の発言により多くの無辜の民が死亡した。』でよいじゃろう。」
オーガスタは相手を煽る事で自分に意識を集中させる事に成功した。
しかし、彼女にとって誤算であったのは相手、イラメカ六世が想像の斜め上を行く様な邪悪さを持っていた事だった。
その日、人類初の入植地であるバーナード星系惑星エドワードは無人の星となった。




